684話(2009年5月9日 ON AIR)
「 嫉妬 」

作 /山内直哉

 

診察室

   
女医

次の方どうぞ

患者

こんばんは

女医

はい、こんばんは。どうしました?

患者

最近、どうも、体調が優れなくて

女医

具体的な症状は何かありますか?

患者

頭が真っ白になります

女医

それは、どういう時に起こりますか?

患者

彼女が男性と楽しそうに話している時

女医

じゃあ、聴診器当てますので、服を上げて下さい

   
 

女医、聴診器を当てる
患者の心の声が聴こえる

   
患者

やっぱさ、友達付き合いは大切にしないとな(心の声)

女医

はい、後ろ向いて

患者

頼むから、俺以外とは一切口利かないでくれ(心の声)

女医

はい、いいですよ

患者

風邪ですかね

女医

風邪ではなさそうです。痛かったら言って下さいね

患者

はい

女医

「友達と飲みに行ってて、返事遅れちゃったの」

患者

痛いです

女医

痛いですね。これはどうですか?「ねえ、あの子、超格好よくない? あのCMの。
ニコって笑ったらエクボの出来る男の子。私、ああいう子、タイプかもしれない」

患者

(被せて)痛い痛い痛い、先生っ、痛い!

女医

はいはい、もうしません。痛かったね

患者

コレ、何かの病気ですかね

女医

コレは…嫉妬ですね

患者

嫉妬? 出来れば早めに治したいんですけど

女医

嫉妬は昔から不治の病と言われてまして

患者

早く治さないと創作に身が入らないんです

女医

創作?

患者

明日締切の脚本の仕事がありまして

女医

彼女と会わなければいいんじゃないでしょうか

患者

別の男に行ってしまったらどうするんですか?

女医

(カルテに)重症

患者

薬で抑えることは出来ないんですか

女医

まあ、最近は医学も発達して来まして

患者

あるんですか!?

女医

嫉妬しなくなる薬が開発されてはいますが

患者

お願いします!

女医

副作用が

患者

創作に集中出来れば副作用なんて問題ないです

女医

コレを飲むと、自分に自信が溢れてきます

患者

え? いいじゃないですか

女医

そのため、自己中心的な人間になってしまいます

患者

それぐらい構いません

女医

あと、怒りの感情が湧かなくなります

患者

え? いいじゃないですか

女医

自分に自信を持ち、怒りを感じない心になるため、相手のちょっとした行動にいちいち嫉妬しなくなります。仏のような男になれます

患者

仏のような男になりたいです

女医

ホントにいいんですか?

患者

死んだりはしませんよね? ホントに仏になるのはイヤですけど

女医

それは大丈夫です

患者

じゃあ、お願いします

女医

では、この液体を飲んで下さい

患者

はい

   
 

患者、嫉妬しなくなる薬を飲む
ゴクゴクゴクゴク…
液体は食道を経て、時も経て―

   
女医

次の方どうぞ

患者

こんばんは

女医

こんばんは。最近調子はどうですか?

患者

元気に暮らしております

女医

彼女とはうまくいってますか?

患者

別れました

女医

えっ?

患者

別れる時に言われました。ちょっとぐらい嫉妬してくれてもいいじゃないって(と、上品に笑う)

女医

じゃあ、今は脚本家一本で

患者

脚本はもう書いてないです

女医

えっ?

患者

どうも創作意欲が湧かなくて…何と言うか、私の場合、おそらくですが、嫉妬とか怒りの感情が創作の源だったようです。それ、なくなっちゃった(と、上品に笑う)

女医

怒っておられます?

患者

いや、不思議とそういった感情は湧いてきません

女医

(カルテに)完治

患者

でもね、仏のような男になったって評判なんですよ

女医

それは薬の効果ですね

患者

良きかな、良きかな(この言葉のチョイスは患者的冗談で薬の効果ではない)

女医

薬代、来週までにお願いしますね

患者

良きかな(と、上品に笑う)

   
 

大切な感情を失ってしまった男は、可哀想な程に優しく笑う

   

終わってまた始まる

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