685話(2009年5月16日 ON AIR)

「月夜の似た者どうし」

作・坂本見花(浮遊許可証)
真夜中のケモノ道を、さえない顔で上る男がひとり。
男の背には、子どもの河童がいる。
さんざ悪さをしたのを、村人につかまったのだ。
  河童、心細くて泣いている。(その声は聞こえなくてよい)
「あー」
河童
「あー(すすり泣く)」
「……辛気くせえな」
河童
「あー(すすり泣く)」
「辛気くせえって言ってるだろがっ。やい、人の背中で泣くな!」
河童
「おーいおいおい(号泣)。河童のかみさまぁ。おらにお慈悲をくださいませ。おらはいまから、このおっかねえ人間に山の奥サ連れていかれるんです。そして、深―い谷底に突き落とされるんです。おらはひからびてしまうんですっ。ミイラになってしまうんですっ」
「と、当然の報いだろうがっ! 散々オレの村荒らしまわっておいて、何が『かみさまぁー』だ。このカッパ! いたずらガッパ!(ちょっと裏返ってるくらいで)」
河童
「ううっ」
「あー、泣いてろ。泣いてろ。泣いたってなあ、だれも助けてなんかくんねえんだぞ。くそっ、泣きたいのはおれのほうだチクショー」
河童
「人間。人間も泣くのか?」
「おめえ。おれんちの牛、食ったろ。おれのハナコを食ったろ!」
河童
「ああ、あれ、おめえんちのベコかぁ! 食った食った。うまかったぁ」
「ばかっ! ばかばかっ! ハナコはなあ、乳牛なんだよ。ホルスタインなんだよ。カッパが食っていい牛じゃねえんだ。ああ、おれぁこれでひとりぽっちだ。蓄えもねえ。嫁さんもいねえ。背中にはカッパ! これどう! おまけにこんな山道を……ぶるり……夜中にひとりで歩くなんてよぉ……」
河童
「怖えのか?」
「ばっ……、怖えもんか! カッパを、捨てに、いくのなんて、オレみたいな力持ちの男でないとできねえ。オレは選ばれてこの大任を果たすのだ(語尾、明らかに強がり)」
物音。
「ひいいいぃ」
河童
「(男の悲鳴に)わわ、なんだ!」
ネズミ。チュウ。
「ネ、ネズミかあ。驚かせやがってー」
河童
「……おめえ、臆病者なんか?」
「臆病者っていうな!」
河童
「(目、まんまるく輝かせて)臆病者なんだな? おらを山ン奥サ捨てに行けと命じられたのも、そんな嫌ぁな役押し付けられたのも、つまりは、おめえ、おめえも、つまはじきにされとるってことなんだナ?」
「あ……っ(図星)」
河童
「なあっ、おらも河童仲間のあいだじゃ落ちこぼれなンだよ。一人前の河童なら人間の村ひとつ困らせてやれねえでどうするって、ハッパかけられてさ。でも、そのあげくがこれだ……。おらのこと、だあれも助けにきてくんねえよ」
「……カッパ……」
河童
「河童の一生なんて儚いもんだぁ。皿の上にお水が湧いて乾くまで、『アッ』という間だ。下ろしてくれよ。どうせ捨てられに行くんだとしても、自分の足で歩きたいよ」
「あ、ああ」
ちゃぷん。
ちゃぷん。
「……なんの音だ?」
河童
「皿のお水の音だよ。おらが歩くとホラ」
ちゃぷん。
ちゃぷん。
ちゃぷん。
ちゃぷん。
「(立ち止まって)なあ!」
河童
「え?」
「おめえの、皿」
河童
「皿?」
「皿の上にホラ」
河童
「皿の上? 見えねえよぉ」
「……月だ。まんまるの、月。映ってる」
河童
「ぅわあああ! (胸いっぱい)お月さん、おらの皿、気に入ってくれたんかな!」
「きっと、そうだ」
ちゃぷん。 ちゃぷん。
 ちゃぷん。 ちゃぷん。
河童
「なあ。おらが、おめえの嫁サ、なってやってもいいよ」
「……えっ」
似たものどうし。
月だけがニッコリ見つめて。