690話(2009年6月20日 ON AIR)
「 檻にケモノ 」

作 /樋口ミユ

 

にゃおん、にゃおん、ワンワンと、動物たちの声 子猫の鳴き声、子犬の鳴き声、

悪女

おはよござまーす。店長?あれー?いないのー?

 

様々な動物たちが鳴いている店内を悪女はいつものように歩く

悪女

てんちょ、

 

その中にまじって、あきらかにおっさんの声で

ケモノ

にぁあ。

悪女

ケモノ

にゃおん。

悪女

おい。

悪女

にゃおんじゃねぇよ。

ケモノ

にゃ?

悪女

かわいくないから。店長!?この動物なんすか、どっから仕入れたんすか!?あ。

 

レジの横に置手紙を発見した悪女

悪女

「お店のお留守番よろちくね」…置き手紙か…また、旅に出やがったな。

ケモノ

にゃにゃはにゃ。

悪女

はにゃって何!?もう店長!新しい動物仕入れたら取り扱い書いておけっつーの。

ケモノ

にあん、にあん。

悪女

動物、つーか、お前さぁ、

ケモノ

に?

悪女

見た目完全におっさんじゃん…

ケモノ

うッ。

悪女

今言葉につまったよね?ねぇ?

ケモノ

に、ニィ、ニィ。

悪女

子猫の声真似したってダメ。ランニングに短パンで、伸び放題の髪の毛の子猫がいるか?

ケモノ

にあー。

悪女

腹見せんな!降参してるつもり!?

ケモノ

にゃおぉん。

悪女

ご飯は猫缶だからね。

ケモノ

え!?

悪女

あたしは豪華に牛丼大盛りとか食べるけど、あんたの目の前で。

ケモノ

にゃあ!にゃあ!

悪女

あんたも牛丼食べたいの?

ケモノ

にんにん。

悪女

でもって、食後にビールとか飲みたくない?

ケモノ

にんにん。

悪女

おっさんじゃん…

 

ピポパと軽快な電話のプッシュ音
何度目かのコール音が途切れると、まくしたてる悪女

悪女

店長!?どう考えてもおかしいんですけど。あれって、道端にいるおっさん連れてきたんじゃないでしょうね?三食昼寝付きとか言って引っ張ってきたんじゃないでしょうね!?いくらなんでもやりすぎじゃない?最近犬や猫じゃ珍しくないから、新しいモン仕入れたいって言ってたのは知ってるけど、あれ?れ?

 

店長の携帯はもちろん、

悪女

留守電だ…何このありがちなパターン…何が留守番よろちくだよ!

 

犬や猫の鳴き声にまじって、おっさんのかわいくない声がする。

ケモノ

にぃー…

悪女

あ…置手紙、二枚目がある…

 

悪女は二枚目を読んでみる

悪女

「珍しい動物。非常に手がかからず、費用もかからない。観賞用」ナニこれ。「見る人によって様々な姿に変異します。この動物の本当の姿はいまだ解明不可能。鏡のように、見た人の中身が映し出される。少女のような女性が見れば、少女に見える。悪魔のような少年が見れば、悪魔に見えるかもしれない。10人の人間が同時に見れば、10種類のものに見える。観賞用ですのでくれぐれも檻からは出さない」…え。ちょっと、じゃ、あたしの中身はおっさんのくせに猫なで声出してるってわけ?ちょっと待ってよ、いくらなんでもショックなんだけど…

 

悪女は振り返って檻を見た

悪女

…あれ?

 

キィ、キィ、と檻の扉が空しく音をたてる

悪女

え!?どこ行った?あれ、鍵、かけてなかったの?やだ…店から出ちゃった?

 

悪女は置手紙を見直す

悪女

10人の人間が同時に見れば、10種類のものに見える…ちょっと、なんか、やばくない?

 

悪女は急いで店の扉を開けて町に出る
町はすでに交通渋滞が始まっていて、いたるところで悲鳴があがる
急ブレーキの車の音、クラクション、パトカーの音さえ聞こえる
誰もが、その珍しい動物に映った自分の本性を垣間見て悲鳴を上げるのだ。

   
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