699話(2009年8月22日 ON AIR)
「 北風と太陽のその後 」

作 /腹筋善之介

 

旅人のコートを脱がすことができず、太陽に負けた北風が言いました。

 

「いや参ったよ。君の勝ちだ。」

 

すると太陽は、

 

「いや、服を脱がせるのは簡単。しかし…」

 

北風が、少し曇る太陽にささやきました。

 

「どうしたんだい?どうしたんだい?」

 

少し曇った太陽は、もじもじしながら、こう言いました。

 

「あいつだけは、脱がせることが出来ないんだ。」

 

北風が、ヒューヒュー鳴らしながら言いました。

 

「まさか、…女か?」

 

太陽は真っ赤になって言い返しました。

 

「バカ野郎!女を脱がすなんてぬかすな!」

 

北風は、太陽の脱がすなんてぬかすな!っていう言葉が気に入り、
真剣に聞いてあげました。

 

「じゃあ、誰を?」

 

太陽は大きなプロミネンスを使って指さしました。

 

「あいつだ!」

 

北風はその方向に意識を向けました。そこには普通のサラリーマンがいました。

 

「サラリーマンじゃん!」

 

太陽は苦々しくいいました。

 

「ジャンって!」

 

北風はそんなこと気にしないでさらに続けました。

 

「スーツを脱がすなんて簡単でしょ!」

 

太陽は言いました。

 

「そうではないんだ。」

 

しばらく間をとり北風は小さな声でつぶやきました。

 

「クールビズ?クールビズ?」

 

太陽は真っ赤になって言いました!

 

「クールビズのためではない。」

 

北風は太陽の言葉がしゃれていなかったので、何も言い返しませんでした。
太陽は言いました。

 

「あいつの理想という殻を脱がしたいんだ。」

 

北風が

 

「理想?」

 

太陽が、

 

「理想という殻。」

 

北風は気を使って言いました。

 

「風を吹かそうか?」

 

太陽は少し黄色くなって、こう言いました。

 

「無理だよ。私たちの力では、理想を脱がすことはできないんだ。」

 

北風は聞きました。

 

「なぜ理想を脱がそうとしているんだい?」

 

太陽は、二つの目をぱちくりさせて話し始めました。ちなみのこの小さな目は、黒点です。

 

「あいつは、理想を手に入れるため、いやなお金儲けもするんだ。」

 

北風はすぐにいい提案を思いつきました。

 

「お金をばらまきゃいいじゃん!」

 

太陽はカンカンになって言いました。

 

「お前は…。」

 

北風は聞きました。

 

「続きは?」

 

太陽は言いました。

 

「お前は大人だな。」

 

北風は言いました。

 

「今まで始めて言われたよ、大人って。…北風の大人かぁ~。」

 

太陽はすごい勢いで突っ込みました。

 

「おい!マジでそう思ってるの!とにかく、お金で解決するのではなく、お金で手に入る理想を脱がしたいんだ!」

 

北風は純粋に疑問を持ちました。

 

「なんで?」

 

太陽はとつとつと話しました。

 

「あいつは、必死になって汗かいて、時間を無駄に過ごしているような気がするんだ。」

 

北風はクールに言いました。

 

「お金で解決出来るならそれでいいじゃん。」

 

太陽は言いました。

 

「でも、過労死するまで働いたり、糖尿病になるまで働いたり、おかしいんだ。お金で理想が手に入るか?お金のためにそこまでするべきなのか?」

 

北風は、さらにクールになって言いました。

 

「でも、それも人生なんじゃない?」

 

太陽は言いました。

 

「そうなのかな。…楽しいのかな。幸せなのかな。」

 

北風は、今まで向いたことないのに、まぶしい太陽の方を向いて言いました。

 

「お前、熱いね。」

 

太陽はさらに熱くなって言いました。

 

「お前クールだな。とにかく、お金で手に入る理想があるという、その思いを脱がしてやりたいんだ。そして…。」

 

北風は少し太陽の言葉を待ってから聞きました。

 

「そして?」

 

太陽は言葉を続けました。

 

「そして…おこがましいが…普通に幸せになってほしいんだ。」

 

北風は考えました。

 

「うーん。そんなことよりさ、夏日はいいけど、猛暑日、何とかならない。」

 

太陽は少し申し訳なさそうに言いました。

 

「えっ?…そうだね。頑張るわ。」

 

北風はさらに言いました。

 

「俺も、いい風吹かすよ。」

 

太陽は少し笑顔で言いました。

 

「ああ、頼むよ。自分の出来る中で精いっぱいしていかなきゃな。」

 

北風は言いました。

 

「おっ!大人になったな!」

 

太陽はギラギラして言いました。

 

「お前が言うな!」

 

そして、太陽と北風は、大人に一歩近づきました。

   
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