704話(2009年9月26日 ON AIR)
「 父の地図 」

作 /大正まろん

 「父はクマのような野生児だった。自然の懐へ溶けるように入っていける人だった。父とならば楽々と森の奥深くへと分け入ることができた。重い荷物も平然と担ぎ、ゆるぎない歩きぶりは疲れを知らなかった。父は、どんなことが起ころうとも生きて帰ってくる、いわば“選ばれし者”だと思っていた。しかし、あっさりと逝ってしまった。下山中、道に座りこみ、そのまま帰らぬ人となった。山の神様が、父をそばに置いときたかったのかもしれないね。と母は寂しそうに笑った。 ふと、深い森の濃い酸素を、胸いっぱい吸い込みたくなり、私は父の遺した地図を頼りに山に入った」

   
 

突風が吹き過ぎる。

   

ううう・・・死ぬかと思った。

すげえ突風だったな。

お父さん笑ってたでしょ。

そりゃあお前が亀みたいだったから。

だって吹き飛ばされたらまっさかさまだよ。

あんなガチガチに岩にしがみついてたんじゃ、何かあっても対処できんでしょうが。

そのとーりですね。

ほら、まだ気を抜くなよ。

はい。

もうちょっと身の丈に合った山に登らないと。

昔、父さんと一緒に登った時は楽勝だったから、平気かと思ったのよ。

・・・。

居なくなって知る、父の偉大さってやつよ。

お前、山、好きか?

好き、けど、怖い。

怖い。

何が起こるかわからないし。

人間のほうが、何考えてんだかわかんなくて怖いけどな。

父さんはそうでしょうとも。

母さんの不機嫌にくらべりゃ、どんな嵐もそよ風さ。

言いつけちゃおっと。

ああ、頼む。

え。

萎れかけてるから、ちょっと刺激してやらないと。

母さんのこと?

頼むな、いろいろと。

ねえ・・・本望だったんだよね。

   
 

再び突風が吹く。

   

「父の遺した地図をトレースしていると、父をそばに感じることができた。父の軌跡をなぞらえなぞらえ歩き行けば、いつか父の場所へ、いやその先へ届くことができるのだろうか・・・。」

もう少しで樹林帯に入る、それまで気を抜くなよ。

はい。

   
終わってまた始まる。
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