717話(2009年12月26日 ON AIR)

「煤払い」

作・前田タカコ(タカコキカク)
登場人物
・男
・女
12月26日。午後十時少し手前。
忘年会で賑わっている師走の居酒屋。
その片隅で縮こまって喋っている男と女(恋人同士ではない)。
あと5日もある。
何それ。5日しかない、の間違いちゃうの?
5日も、やの! とにかく早く終わって欲しいの。今年が。2009年が!
なんなん? なんか悪いことでもあったん?
訊きたい?
意味深やな。うん。訊きたい訊きたい。
後悔せんといてよ。
う、うん。
まずね、年の初めに突然人事異動があったんよ。で、めっちゃ忙しい部署に回されて、もうプライベートの時間全然ない。そのせいか知らんけど彼氏にもフラれたし、家に空き巣入られたし、夏は海で溺れかけたし、合コンでちょっといいなって思ってた人にはストーカーされるし、年末にはケイタイ失くすし、もうホンマ最悪やで。
酷いなぁ。もしかして厄年?
ちゃうよ。
でもな、俺も今年、めっちゃついてへんかってん。
嘘。
二月に車ぶつけられて鞭打ちなったし、春になんや新入社員いっぱい入ってきたなって思ってたら自分が切られてもうて、無職になったら彼女はいつの間にか連絡取れへんくなってもうてるし、仕事も全然見つからへんし、やっと見つかったかと思ったら三ヶ月後に会社倒産してまうし。あ、今も求職中やねんけどな。おまけにおかんは病気になるし、マイケルも死んでもうたし、
マイケルあんたの問題にせんといてよ。みんなのマイケルやで。
俺の問題なの! 俺のマイケル…キング・オブ・ポップ (思い出して泣き始める)。
分かったからもう泣かんといて。
…ついてないやろ、俺。
う、うん。ちょっと退いてまうぐらい酷かった。
おみくじは大吉やったのにな…。
それ引いちゃったせいで、運が尽きてもたんちゃう?
そうかも。俺の微々たる幸運、大吉一枚で終わってもうたんかも。
ま、過ぎたことはもういいやん。来年、来年よ!
うん、来年こそ大凶…、
いや、そうじゃなくてさ。来年こそいい年に、でしょ!
そうやな。いい仕事、見つかりますように!
カッコイイ彼氏が見つかりますように!
おかんの病気、治りますように!
電撃結婚出来ますように!
男・女
来年こそ、いい年になりますように!! カンパーイ!
メリークリスマス! (クリスマスの歌を歌いだす)
それ昨日、終わったから…、
男と女は笑い、飲み、喋り続ける。
酒と友情で今年の煤を払いながら、二人の眼差しは新しい年へと確かに向かっていた。
おわり