721話(2010年1月23日 ON AIR)
「 厄厄厄 」

作 /樋口ミユ

 

ボリボリ、ボリボリ、豆食らう。
狂ったように豆食らう。
ボリボリボリボリボリボリボリボリ。

豆女

ナン粒だっけ?数えで?数えってややこしくない?とりあえず年の数だけ?33粒。節目だから節目。あー、歯につまるんだよね。つまりだしたら年だね。だってさんじゅうさんだもーん。お茶いれてくれない?

あ、はい。

 

コポコポと湯のみに注がれる熱いお茶。

豆女

あんたも大変だぁねぇ。

や、そんな。もう最近あんまり忙しくないですから。

豆女

だぁね。節分なんかイマドキどの家庭も忘れてるもんね。

え、ですから僕もまぁ、今は、やってないんですけどね。

豆女

え!?今鬼やってないの?

え、普通に営業やってますから。

豆女

営業?何の?

某携帯ショップで。

豆女

そんな赤い顔して?

赤面症ってことにしてますから。

豆女

赤すぎるよ?

そんな人間もたまにいるでしょう。

豆女

世間にまぎれてるねぇ。

こんな時代ですから。

豆女

本業の鬼は廃業して?

お呼びもかからないし。

豆女

呼んだ呼んだ呼んだじゃんあたしが。交差点青信号になって歩いてたら、いるんだもん。鬼がさぁ。背広着て。こりゃ家に呼ぶでしょそんなもん。普通会わないよ?あ、ちょっともうちょい暖房の温度上げて。

あ、はい。

 

ピピとリモコンの音。

や、完璧に人間の格好していたはずなんですけど。

豆女

なわけないじゃん!じゃこれなによ!?

角、ですね。

豆女

ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ、ツーノ!

角コールはやめてくださいよ。

豆女

丸見えじゃん。

普通は見えないんですよ。

豆女

あたしには見えるんだけど。

ねぇ。なんででしょうかね。

豆女

そりゃあたしが鬼に近づいてるからじゃないの?

へ?

豆女

鬼のあんたが背広着て営業して人間に近づいてるんだから、人間のあたしが鬼に近づいたっておかしかないでしょうが。

ああ、なるほど。

豆女

いっそのこと変わっちゃおうか?

変われるものならねぇ。

豆女

あたしが鬼なら、鬼の職業まっとうするけどね。

そりゃはたから見れば、お伽話的な生活に見えるだけですよ。

豆女

違うわよ。

え?

豆女

人間だからヤんなるのよ。

鬼ならヤじゃないんですか?

豆女

人間なのに、って思っちゃうから複雑なのよ。完全に鬼になりきれないのに、むっくり顔を見せるのよ。赤い赤い顔が。怒りに燃えた赤い顔がね。鬼なら、それが当たり前じゃない。

鬼にだって、いろいろあるんですけどね。

豆女

そうね。背広着てるくらいだからお察しするわよ。

久々に、投げつけてもらえますか?

豆女

豆ね。

思い切り。

豆女

それが本業でしょ?

はい。

豆女

追い出さなきゃね。

はい。

 

豆女は窓を開けた。
そうして思い切り叫ぶ。
しんとした夜の街に向かって。
「鬼は内、鬼は内、鬼は内、鬼ばっかり」
バラバラと、豆は夜の闇に消えていった。

   
おしまい
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