724話(2010年2月13日 ON AIR)
「タカハタさん一歩を踏み出す」

作 /大正まろん

(鬱蒼とした木々におおわれた庭の奥に、骨董品めいたその館は建っていた。)

   

失礼しまーす。

(とツジオ先輩は預かっていた鍵を差し込み、重くて大きな玄関ドアを開けた。)

じゃあタカハタさん、あと頼めるかな。

(私はペットシッターの見習い中。このお宅に来るのは初めてだ。なのになんだこの無茶振りは。)

無茶を言ってるのは承知なんだけど。

(しまった、感情を露わにしすぎてしまった。)

さっき、タカハタさん「霊感とか全然ない」って言ってたよね。

(言いましたけど)

だから、頼む。

(その【だから】ってどういう意味?)

ここん家、玄関の前に盛り塩がしてあるでしょ。

(盛り塩は、お清めとか厄除けみたいなもんで珍しくはないでしょ。)

それに、よーく見て廊下の突き当たりの飾棚。

(暗い廊下の先、目をこらすとドッヂボールくらいあろうかという水晶らしきものがドドーンと鎮座している。え、なにこの家の主は占い師か?)

ここの奥さまが言うには、人通りの多い道があるように、【そういうの】の通り道になってるそうだ。

(そういうのって・・・)

デルんだよ。

(げ。私、霊感は無いけど、死ぬほど怖がりなんだ。怖い映画なんか見ちゃった日にゃ、トイレのドアは閉められないし、電気も消さないで寝るくらいなんだから。)

ご要望は、ネコのエサやり。別に難しくもなんともないでしょ。ホントは新人の子に渡しちゃだめなんだけど、タカハタさんしっかりしてるし。これ、

(と先輩は、家の見取り図やら要望書の入ったファイルを私に差し出した。)

俺さ、ダメなんだよ。ほんっとアレルギー体質みたいな感じで、ちょー敏感なの。

(霊アレルギー?聞いたことないよ、そんなの)

ここに居るだけで、頭痛いし、ゾクゾクしてきたし。

(それは先輩が二日酔いだからです。)

取りあえず、お願いできる?

(動物は正直だ。だからこの仕事に就いた。人間は苦手だ。嘘はつくし、一旦どうでもいい奴とみなせば、ひどい仕打ちを平気でする。)

タカハタさん、俺の話、聞いてる?

(引き受けたっていい。霊なんて見えたことないんだから。怖いけれど、きっとどうってことない。でも・・・私がもっと美人だったら、先輩も一緒に付いてきてくれただろう。そんなことを思うのは、私が卑屈だからだろうか)

ねえ。

(昔、ツジオ先輩に似た、人なつこい笑顔のクラスの子が居た。スポーツ万能で面白い彼は人気者。テスト前、ノートを貸してと頼まれ、私は舞い上がった。頼りにされて嬉しかった。けれど私のノートはテストが終わるまで返ってはこなかった。)

どうなの。できんの、できないの?

行きます。

よかったあ。助かるよ。そんじゃあ俺は、車で待ってっから。

(せめてこの玄関先で待ってて、ってなんで言えないんだろ。・・・私は私のことが苦手だ。いつもこうして我慢して、引き受けて、いい顔して、どんどん抜き差しならないことになっていく)

じゃあ、頼むな。

あ、あの、

なに?

(がんばれ私、がんばれ私。)・・・携帯。

携帯?

何かあったら、電話するので、そん時は、

うん、駆けつける。

はい。

   
 

終わってまた始まる

   
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