729話(2010年3月20日 ON AIR)
「ハードレイン」

作 /ごまのはえ

激しい雨。

  
女N

春の嵐。それは一年に一度だけのことだ。

  

喫茶店の「カランコロン」

  

おう。ごめんな忙しい時に。

うん。

元気?

うん。

  

しばしの沈黙。

  

こないだジムジャームシュ観なおした。やっぱすごいよあれは。たまたまビルマーレ イがでてるの深夜やっててさ。やっぱ音楽の使い方とかすごくてさ。「ミステリィトレイン」の頃は「どうやろ?」って思ってたけど、すげーよかった、あれでカンヌ取ったらしいよ。でもなんか小道具とかクドイって思っちゃうよね、はいはいそうゆう展開みたいな。あ、「グラントリノ」も観たけど、やっぱ去年の一位はあれかな。「チェンジリング」は重すぎ。

いいから、早く出してよ。

うん。

  

男はカバンから書類をだす。
それは確定申告に必要な書類。

  

なんかあるやんパソコンでやるヤツ。イータックス?あれ挑戦したけど全然記入でき なくて。

支払い調書は?

あ、この封筒。

経費は?

領収書。

あ、この封筒。

貸して。

電卓。

いい。持ってきた。

ごめんな。

作品ごとの経費でないけど。

いいよ。全然。

  

女はパチパチと領収書をまとめ出す。

  
女N

毎年一年に一度。確定申告の季節。二人は会う。私はわざわざ電車にのって、昔住んでいたこの町に。あの人は目元だけあの頃のまで。顔は確実に30代。映画好きの若い女の子にはもてるかもしれない。

  

控除なんもなしでいいの?

うん。

国保は?

いい。

…。どうしてんの?

……。

まぁいいけど。

ありがとう助かった。

もう来年は電話せんといてよ。

うん。ごめん。

  

喫茶店の「カランコロン」。
二人は別れる。外はまだ雨。

  

若い大学生たちと一緒に私は駅に向かう。平成21年、あの人は127万円の収入があった。大学生たちはラクロスだろうか、ホッケーだろうか、肩からラケットのようなものを下げている。さよなら90年代。私も帰る、今の生活へ。あの人を残して。

  
おわり
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