735話(2010年5月1日 ON AIR)
「あ゛~!」

作 /大正まろん

そこは、どこかの森の中。
虫の声、鳥の声、川のせせらぎ。
森の静けさを破る女の声。

あ゛~っ!

なに?

ううん。

どうした。

来なくていいってば。

言いなさい。

おっこちた。

なにが?

おっこちたやつは、私が食べるし。

ひょっとしてゆで卵?

あ゛、黄身が・・・せっかくいい感じの半熟にして持ってきたのに。

もったいねー。

私食べるもん。

食えるか。炸裂してるぞ。

あ゛~っ!

こんどは何。

み、味噌汁が煮立ってる。

見てないで火を止めろ、っつうか何もすんな、俺がやる!

  

男はコンロの火を止める。

  

はああ。

温めなおそうと思って火にかけたの。忘れてた。

あのな、

ごめんね。

集中してっか?

へ?

今、目の前で何をしているか、それにちゃーんと気持ちを傾けてる?

キッチンじゃないし、こんな状況に慣れてないから仕方ないでしょ。

いいや、まゆちゃんは家でもそうだ。

そうかな?

いつも、あ゛~あ゛~って言ってる。

私、いつもボーっとしながら料理してるってこと?

「グラスはなぜ割れた?」ってな。おいらの働いてた店で、先輩に言われたもんさ。

グラスなんか割ってないよ。

例えだよ。グラスや皿が割れる時っつうのは、その瞬間をよくよく思い出せば全くのよそごと考えたり、他のことに注意を取られたりしてるってこと。

料理下手だからいつもテンパってるのよ。どーせ私なんか料理しない方がいいのよ。

大丈夫だって。そういうことを意識して積み重ねて行けば、自然と上達するもんだって。

けど、セイちゃんは私よりひどいよね。

え?

グラスは何故割れたか、ならぬ私たちは何故道に迷ったか。

それは、

地図持ってたのセイちゃんだよ。なのに、あの植物はなんとかっていう珍しいやつだとか、蝶の写真とるためにどんどん道じゃないとこへ入ってくし。

大丈夫だって。

じゃここはどこ?この地図でいうなら、ここはどこなのよ。指し示しなさい。

う・・・。

お家に帰りたい。風呂入りたい。お布団で寝たい。

明日には帰れるって。悪かった、俺が悪かったから。

あ゛~!

なに。

どうしよ。

なになに。

あの、ヘッドランプって言うんだっけ。あの電池、家に置きっぱなしだ。

まじで?

まじで。

  

漆黒の闇が、まもなく二人を包むだろう。

  
終わってまた始まる
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