747話(2010年7月24日 ON AIR)
「理想」

作 /山内直哉

ゲスト出演・Sun(ミジンコターボ)
音楽:長島真五(名城ABAスタジオ)

リビング(音楽がかかっている)

  

オチが浮かばない。いいオチが浮かばない!

そのラジオドラマは、何分あるの?

3分

3分だったら、別にオチが無くてもいいんじゃない?

3分だから、オチがいるんだよ。あっと驚くオチが必要なんだ

誰が言ったの? 必要って

誰も言ってないけど、必要だと思うんだよ

でも、変に気を衒うよりさあ、人間描写とかメッセージ性を打ち出せば、オチが無くても、いい作品にはなるんじゃない?

え、じゃあ、例えば、何でもない夫婦の会話だけで、終わっていいと思う?

いいんじゃない? え、例えば、どんな会話?

例えば、オチが浮かばなくて悩む夫と、その相談に乗る妻の会話

相談しているだけで終わっていいんじゃない?

よくないだろ。リスナーは「おい、何だったんだよっ」ってなるぞ?

「何だったんだよ」ってならないように作ればいいじゃない

例えば、どうやって?

  

ここから、妻のセリフがすべて夫の声になる(夫の自問自答)

  

どうやってって…それは、やっぱり、メッセージ性じゃない?

メッセージ性があれば、オチがなくてもいい?

いいと思う

メッセージ性があって、さらに素敵なオチがあったら?

もっといい

おいおいおいおい

  
夫N

このように、結局、最後は、自問自答して考えるしかないのだ。妻は仕事の相談には一切乗ってくれない。乗ってくれないというか、仕事のことは分からないのだ

  

書斎のドアをノックする音

  

はい

  

ドアの開く音

  

ねえ、まだ起きてるの?

なかなかいいオチが浮かばなくて

旅行の準備はもう出来た?

準備は、出来てる

軽井沢に行けばさ、きっといいアイデア浮かぶよ

まあ、確かに、最近はずっと篭っていたからなあ

久々に羽を広げて遊びましょ

そうだな

軽井沢に着いたら、まず何する?

  

ここから、夫のセリフがすべて妻の声になる(妻の自問自答)

  

そうだなあ。やっぱりアウトレットモールでショッピングかな?

旧軽井沢の方も行きたい

おお、行きたいな。モカソフトが食べたい

ああ、食べたい食べたい~

  
妻N

このように、夫が仕事に出かけたあとは、一人寂しく妄想するしかないのです。夫は仕事ばっかりで全然構ってくれません。夜遅くまで帰って来ない家に一人ぼっちでいるこの寂しさが、夫には分からないのです

  

玄関のベルの音

  

はい

  

玄関の開く音

  

ただいま

おかえり。仕事の方はどう? 落ち着いた?

うん、オチ、付いた

  

リビング(音楽がかかっている)

  

っていうオチはどう?

おお、いいかもしれない。“落ち着いた”と?

“オチ付いた”

うん、いいねえ

あなたは“オチ、付けないと”?

“落ち着けない”

みたいな

いいねえ。いやあ、相談に乗ってくれてありがとう

どういたしまして

来週あたりさあ、旅行でも行く?

え、ホントに!? 軽井沢行きたい!

おお、行こう行こう。軽井沢で何したい?

  

ここから、妻のセリフがすべて夫の声になる(夫の自問自答)

  

そうねえ、まずはやっぱりアウトレットモールでショッピングかな?

ショッピング、うん。あと、旧軽でモカソフト

ああ、食べたい食べたい~

  

その夫婦はお互いの秘かな不満を分かり合っていた―
それが理想なのかもしれない…

  
  

という、オチに決めたようだ― それが理想なのかもしれない…

  

  
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