753話(2010年9月4日 ON AIR)
「悪夢の源」

作・樋口ミユ(劇団Ugly duckling)

  
 

キィ、バタン
と診療所の扉が開け放たれた。

 

 

先生

次の方どうぞー。

患者

先生。

先生

はい、その顔、風邪ね?

患者

違います。

先生

じゃあ腹痛ね。クスリ出しときますから。

患者

全く違います。

先生

それじゃ何がいい?

患者

きちんと診察してください。

先生

実はこれも診察のうちなんですの。

患者

悪夢を見るんです。足の爪から真っ黒な髪の毛が生えたり、足のスネに爪がうろこのように生えたり、少女がのこぎりで自分の口を横にギコギコと切り裂いていたり、少年が手榴弾を口に放り込まれて爆死する夢だったり、とにかく、悪夢しか見たことがないんです。

先生

分かりました。とりあえず脳に溜まっている悪夢を取りのぞきますから。

患者

は!?

先生

はい、頭蓋骨を電動ドリルで穴を開けて悪夢を搾り出しますね。

患者

はいぃ!?

 

ドリドリドリドリと、鈍い音がする。
患者は思わず叫んだ。
次の瞬間、
キィ、バタン
と診察所の扉が開け放たれた。

先生

次の方どうぞー。

患者

先生。

先生

はい、その顔、悪夢ね。

患者

そうです。毎晩悪夢にうなされます。

先生

内臓から来てますね。

患者

え?

先生

まず内臓に溜まった悪夢を取り除きますから。

患者

え、だって夢は脳で見るものでしょう?

先生

いいえ、人は心臓で夢を見るんです。

患者

初耳です。

先生

あたしも始めて知りました。

患者

大手術になるでしょうか?

先生

いいえ、今すぐ済ませます。ライフル準備しまーす。

患者

は!?

先生

打ち抜いて悪夢を取り除きます。

患者

はい!?

 

ライフルから放たれる数十発の銃弾。
患者は思わず叫んだ。
次の瞬間、
キィ、バタン

患者

という、悪夢を、毎晩、毎晩、見るんです。

先生

…なるほどね。

患者

先生、僕の頭はどうにかなってしまっているんでしょうか?

先生

うーん…

患者

あらゆる病院に通いました。精神科だって、心療内科だって、どこも異常なし。だけど毎晩うなされる。毎晩ワケの分からない夢を見る。うなされる。

先生

で、ウチにたどり着いたわけだ。

患者

はい。睡眠外来なんて、全国にもここだけでしょう?

先生

そんな馬鹿な、みたいな名前で、ギャクかと勘違いされるのよ。

患者

だけど先生にすがるしかないんです、もう。

先生

職業なぁに?

患者

は?えー…、銀行員、です、けど…?

先生

たまに小説でも書いてみたら?

患者

はい!?や、や、先生、僕、かなり悩んでいるんです。

先生

だから、小説とか、あ、絵画とかでもいいけど?音楽だっていいし。

患者

ちょ、何言ってるんですか?

先生

悪夢って言うけど、悪いだけじゃないから。

患者

は?

先生

悪夢の源はね、何か知ってる?創造よ。クリエイティブよ。

患者

悪夢、なのに?

先生

そ。悪いナニか、じゃないの。悪いことを想定して夢を見る、その想像力よ。

患者

…は?

先生

どこも悪くない。ただ、脳みそがクリエイティブしたくてウズウズしてるだけよ。

患者

僕 僕が…?こんな、フツーの、僕が?

先生

悪夢が、クリエイティブの証拠よ。

 

キィ、バタン
診療所の扉が閉められた。

患者

悪夢が、少し、嫌じゃなくなった。僕は単純だ。

 

 

 

 

  
おしまい
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