755話(2010年9月18日 ON AIR)

「親戚が多すぎて」

作・ごまのはえ
甲子園のサイレン。大観衆のSE。
今年も甲子園では沢山のドラマが生まれました。選手たちの一生懸命なプレー一つ一つが今も私たちの目蓋に焼き付いてます。こんばんは平野舞です。今夜は少しだけ趣向を変えて、ある甲子園球児のエピソードをお伝えします。
ウグイス嬢「大田舎高校バッター交代のお知らせです。バッター八木元くんに代わりまして世小口くん」
よし!こいや!
彼の名前は世小口文夫くん。大田舎高校の3年生です。小学校の頃から野球を続け、ついに甲子園へのキップを手にしました。彼の夢は甲子園でヒットを打つこと。けれど運命の神様は彼にとんでもないイタズラをしかけます。始まりは地方大会を勝ち抜き甲子園へのキップを手にした夜のことでした。
田舎のお屋敷。親戚一同が集まって文夫の出場を祝っている。
世小口文夫くんの前途を祝して、カンパーイ!
ここは文夫くんの本家の居間です。沢山の親戚が集まって彼の出場を祝いました。彼は忙しく立ち働く母親にそっといいました。
母ちゃん。テレビ見ててね。バッターボックスで母ちゃんのことを思って右の肩を触るから、
すると父親が、
オレのことは思わんのか?
両親思いの彼は慌てて、
父ちゃんのこと思いながらヘルメットを少し目深にかぶり直すから、ちゃんとテレビ見ててね。
そうなると黙ってないのが父親の妹、文夫くんのオバです。共働きだった兄夫婦は幼い文夫の面倒を彼女に任せきりでした。
オバさんのこと思いながら、シャツの袖を少し引き上げるから
それを聞いていたのが本家の嫁、旦那にこっそり耳打ちします。
(旦那) 文夫。
本家の旦那が文夫を呼びつけました。何やら白い封筒を渡します。
(旦那) 生水には気をつけろや。これはワシからの気持や、荷物にならんさかい持っていけ。
文夫くん。高校生とはいえそこは心得たもの。
本家の益々の発展を祈ってバットを二回まわします
その後も沢山の親戚と沢山の約束をしてしまいました。
そして舞台は甲子園。一点リードされた9回の表。代打の切り札世小口文夫の登場です。
ウグイス嬢「バッター世小口くん」
よし!こい!
次の瞬間。甲子園にいた全ての人。テレビを見ていた全ての人が息をのんだ。
マイケル「ビーットイット」
右の肩を触ってヘルメットを被り直しシャツの袖を直してバットを二回まわして右足を蹴り上げフーっと咆え、それからそれからそれから。その動きはまるでキングオブポップのようでした。
…いかん早く終わらせんと…
踊りながら彼には相手のピッチャーが投げようとしているのが見えました。
…いかん振りおくれる…
そう思いながらも親戚への合図はいっこうに終わりませんでした。
審判「ストライクバッターアウト!」
結局、彼の夢はかないませんでした。世小口くんの気持を思うたび、私はこう思うのです。親戚は多すぎてもヤヤコシイ。平野舞でした。
おしまい