761話(2010年10月30日 ON AIR)
「ユーレー貸します」

作・大正まろん

  
 

ガラガラと引き戸の開く音。

  

こんばんは。

  
 

シーンと静まった店内。

  

ごめんください・・・・誰か居ませんか?

なに?今、飯食ってんだけど。

なにって、あの、ここで、なんて言うか・・・貸してくれるって聞いて。

ああ。今日はもう店じまい。そこに準備中って札かけてあったろ。

かけてたけど。

そういうこと。また違う日に出なおしとくれ。

そんなに簡単に門前払いしないでよ。

だって仕方がないだろ。みんな出払ってんだし。

予約は?

え?

予約して帰るわ。今度来てまた誰もいないんじゃ困るもの。

予約は無理。出直しとくれ。

なんなのそれ。

なに。

ちょっと変わった商売だからって傲慢になってんじゃない?

傲慢もなにも、どうしようもねえんだって。

私が、どんな思いでここまで来たか。

あーあ、湯豆腐が冷めちまうよ。

嘘なんでしょ。

なにが?

ユーレーなんか居ないのね。そうよそういうことなのよ。私騙されたのね・・・。

おいおい、じゃあ俺はここで何を生業(なりわい)にしてるってんだ?

それなら明日も来るから、一人お取り置きしてよ。

お取り置きって、物じゃねーんだぞユーレーは。

それくらいやんなさいよ、商売なんでしょ。

縁(えん)がないと仕方がねえんだよ。

縁?

そ。ユーレーってもんは、未練や執着があるからこの世に居るんであってな、その力を利用するわけだから、縁がなけりゃあんたとは出会えねえわけだ。

よくわかんない。

例えば、あんたをソデにした男に復讐したくて、それをユーレーに頼みたいとしよう。

え、なんでわかったの?

別に当てずっぽ言っただけだ。

ふうん・・・。

ってことは、男に恨みをもってるユーレーでないと、あんたの頼みは聞けないだろ。

そんなユーレーが居ないの?

四人居るが、一人が昨日めでたく成仏しちまって、一人は、家賃を納めねえって店子(たなこ)の部屋へ出て欲しいと大家が借りてって、一人は出先でネコをけしかけられて療養中だし、あと一人は・・・。

要は居ないってことなんでしょ。

そ。

でも「居る」「居ない」ってのと、縁が「有る」「無い」ってのと別じゃないの?

だろ、そう思うだろ。ところがどっこい、たとえ出先に居たって、自分と波長の合う、つまり縁の深い人間がここに現れると、磁石みてーに引っ張られるわけだ。

引っ張られると?

なにしろユーレーだろ、一瞬こっちに戻って「その依頼、あたいが引き受けるわ」なーんて言って、また消えるって寸法さ。

・・・わかったわ。

まあ、こっちもユーレー社員を増やすよう今、動いてるし。また、何日かしてから来てみてよ。

それじゃ、また来るから。

  
 

女、引き戸を開け、出て行った。

  

・・・帰ってったよ・・・ちょっとミチエさん、なんで嫌だったの?・・・男を脅すってったらミチエ姉さんの得意分野でしょうよ。え?・・・あんな気のキツイ女、ソデにしたくもなるって・・・ははは、確かに。ユーレーより人間のほうがよっぽど怖えもんな。だから俺はユーレーと仕事やってんだけど。おっと、いけねえいけねえ、湯豆腐が冷めちまうよ。

  
終わってまた始まる
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