764話(2010年11月20日 ON AIR)
「願いごと3つ」

作 /竜崎だいち(ミジンコ・ターボ)

  

ドローン。と、ランプの精が出てきた時のような、音がする。

  

……唐突、ですね。

妖精

はい、唐突、です。

……はい。

妖精

私はランプシェードの妖精。あなたさっき、このランプシェードをこすったでしょ?

掃除、してましたから。

妖精

呼び出してくれてありがとう。今から3つ、何でも願いを叶えてあげます。

  

唐突に、語り。

  

確かに、僕のマンションは古い洋館みたいな造りだった。部屋の前には、誰も掃除したことがないような、古ぼけた電灯があった。越してきて2年半、僕はそれに明かりが付いたのを見たことがなかった。少しだけ、かわいそうって思ったんだ。だから、雑巾でドアを拭いたついでに、真っ黒になった電灯のカサをちょっとだけ、拭いてやっただけなのに。

  

唐突に、トイレの中。カラカラと、トイレットペーパーがなくなった音が。

  
妖精

ないですね、紙。

こんなとこまでついてくるんだ。

妖精

欲しいですか? 紙。

いいよ、ポケットティッシュ、あるし。

  

水を流す音。

  
妖精

彼は、とにかく無欲だった。堅実だしまじめだし、酒もタバコもギャンブルもしない。たった一匹だけ、ペロという名の子犬を飼って、地味に暮らす、地味な青年だった。

  

色々な、ある日が交錯する。

  
妖精

宝くじ、当てたくないですか?

僕、貯金あるし。

妖精

高級車欲しくないですか?

免許持ってないし。

妖精

モテたくないですが?

人見知りだし。

妖精

空飛びたくないですか?

高所恐怖症だし。

妖精

無欲にもほどがある、と、仲間たちは口々に言った。そうして、一度も彼の願いを叶えることなく、8年の月日が流れた。

  

唐突に、中年になった男。

  

頼みたい事があるんだ。

妖精

今、なんて?

頼みたい事があるんだ。

妖精

何でしょう!

ペロと、話がしたいんだ。

妖精

ペロって、犬の、ペロ?

元気がないんだ、病気かもしれない。どこか痛いとこないか、聞いてあげなくちゃ。

  

願いがかなう、音。

  

ペロはもうおじいちゃんだった。その晩、僕とペロは遅くまで語り合った。翌日、ペロにお迎えがきた。でも、僕もペロも幸せだった。ランプシェードの彼女は、ずっと一緒にいた。それからも僕は、何も望まなかった。気が付くと、僕がランプシェードをこすってから、ちょうど60年の月日が流れていた。

  

唐突に、老人になった男。

  

頼みたい事があるんだ。きみと手を、つないでみたい。

  

願いがかなう、音。

  
妖精

あと一つ、叶いますよ。

十分だよ。

妖精

でも。

60年間、きみは僕のそばにいてくれた。寂しいと感じることは、ただの一度もなかった。十分だよ。

  

男、息を引き取る。

  
妖精

3つの願いを全て叶えることなく、この世からいなくなった人は彼が初めてだった。私の手元には、あと一つ、彼の願い事が叶う、権利だけが残された。実は、少し嬉しかった。これを手渡す口実に、彼が転生して、またここに戻ってくるのを、待てるのだから。

  
おわり。
  
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