771話(2011年1月8日 ON AIR)
「丸いってこと」

作・山本正典(コトリ会議)

丸いじゃないか君。

はい。

君。これはあまりにも丸いとそうは思わないか。

はあ自分のことですから私はあまり。

丸いじゃないか。

あ申し訳ないです。

申し訳って君これはもう詐欺のような丸みだからね。

あの私そんな風に自分のこと言われるだなんて思ってなかったのでなんだか涙が。

泣いているのは私だよ君ええ丸っ。丸い丸いよまるまるまるっちょ!

うう。ううううえ。(泣いている)

まるっちょ!このまるっちょ!丸いから。まるっちょ!

えええええうえぐえぐ。(泣いている)

まああああああるっちょ!

そんなのってない!

お、なんだまるっちょ。

人のことまるっちょだなんてそんなのいくらなんでもないわ!

あるじゃないか私の目の前に、はちきれんばかりのまるっちょが。

私が言っているのは私の体型のことじゃない!

私が言っているのは君の体型のことなんだよ!

あんただってまるっちょじゃないのよ!

おまっ!面接官にむかって「まるっちょ」だと!

まるっちょじゃないのよ!

まるっちょのくせにまるっちょに向かってまるっちょって言うなまるっちょ!

最初にまるっちょのくせにまるっちょに向かってまるっちょって言ったのあんたじゃないのよまるっちょ!

出てけ!まるっちょなんか私の会社にはいらん!

たーーー!

  
 

何かが崩れるような轟音が。

  

な、この面接会場の椅子という椅子をてめえの脂肪でドアの前にバリケードのように積み上げてしまうとは、どういう体脂肪率してんのさ!

これで私とあんたは一対一ね。

確かにこうも椅子が積み上げられてちゃ出てけだなんて言えねえな。さあ面接を始めようか。

あら、まるっちょのくせに意外と冷静だこと。

だてに一日三食ジャムばかりをほうばってきたわけじゃあないさ。

なるほどどうりでまるっちょね。

だからまるっちょのくせにまるっちょに向かってまるっちょって言うなまるっちょ!

だってだって最初にまるっちょのくせにまるっちょに向かってまるっちょって言ったのあんたじゃないのよまるっちょ!

君ってやつはああ!俺の脂肪が怒りで燃えるぜえ!

な、自分の気持ちひとつで脂肪を燃焼できるだなんて!女性の敵!

どうせオイラは万年ひとりっこーーーー!

  
 

爆発するような音が。

  

ついに会社そのものが崩れ去ってしまったわ。しかもこの人、痩せてるわ。

いい加減面接を始めようか、お前、名前は。

人の履歴書燃やしておいて。あんたなにもの?

面接官だ。

まいったわね。私の名は細木真子(ホソギシンコ)よ。

似合わねえ名前してくさりやがって。

ぐすっ。どうせ私は昔から、名前の悪口が人生の悪口の9割を占めるわよ。そのうち5割が元カレからの悪口よ。

9割が、名前の悪口だって。なんて不憫な乙女さん。

男なんて皆そうよ。どうせ巨乳でスレンダーで生足で足のサイズが22センチ以下の女が好きなんでしょ。

待ってくれ。私はどっちかというと貧乳が大好きだ。

どっちにしても細いじゃないのよ!

  
 

風圧のような音が。

  

な、この燃焼力は。こいつも私と同じ力をっ!

私だって万年ひとりっこよ!

お前さっき元カレがどうとかって言ってたじゃん付き合ってんじゃん!

うるさいしコゲ臭い!

それは言わないお約束!

私だって!痩せたかった!

その時私は気づいてしまった。この女は私だ。私とおんなじなんだ。生まれた時からまるっちょで。
友達からも馬鹿にされ。愛想笑いも疲れ果て。ネカフェで毎晩引きこもり。この女を私は今こそ救わなければ、高血圧で倒れてしまうわ!このまま彼女の脂肪燃焼力を持続させて、まるっちょから解き放つんだ!

う、う。(泣いている)

痩せたかった、だって?

なによ。

なぜ過去の出来事のように自分の体型の事を言うんだ。そんなんだから君は未だにまるっちょなんだ。

そんなのって。

ぷりぷりぷりぷり脂がのりやがって。それじゃいつまでたってもおいしそうだぜ!

私のことをおいしそうですってー!

  
 

何かが爆発する音が。

  

なんて脂肪だ。会社の瓦礫どころか近くにあった公園までぶっ飛んじまったぜ。

私はなんてことを。うう。あれ?

どうしたい。

ほっぺたが、引き締まっている。

きみ。

お腹が。くびれが。二の腕が。

おめでとう。体型に似合った、いい名前だよ。

面接官さん。私、鏡が見たい。

いいぜ。うち、来いよ。

はい。

こうして、会社もなにもかも失っちゃった私だが、かけがいのない人を、脂肪と引き換えに、自分ちへ招き入れた、私だった。

  
  
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