774話(2011年1月29日 ON AIR)
「2011(ニーゼロイチイチ)」

作・樋口ミユ

 

窓を開ける。
太陽の光。
まだ寒い。
春は遠い。
鳥が羽ばたいた。
カーテンが揺れている。

  
僕の恋人

おはよう。

おはよう。

僕の恋人

気分はどお?

…よく分からないな。

僕の恋人

顔色はいいみたい…良かった。今日はね、ちょっと寒いの。あ、でもね、お天気よ。

寒いか…どんな感覚か、もうあまり思い出せないな。

僕の恋人

あのね、すっごくいいもの持ってきたの。なにか分かる?

いいものか、何だろ?

僕の恋人

ちょっと待ってね。

  
 

ガサゴソ音がする。

  
僕の恋人

はーい、イヤホーン。

何?音楽?聞かせてくれるの?

僕の恋人

元旦にね、いろいろなところに行ったの。

知ってる。あぁ、どこに行ったのか分からないけど。今年は側にいなかったからね。

僕の恋人

遊びに行ってたんじゃないのよ。

遊びに行ったって、いいんだよ。君は、どこに行ったって、いいのに。

僕の恋人

ね、聞こえる?

僕の、耳に、滑り込む。

  
 

鳥の声

  
僕の恋人

2011年の、鳥の鳴き声。

  
 

飛行機

  
僕の恋人

2011年の、一番初めの、飛び立つ飛行機。

  
 

海の波の音

  
僕の恋人

2011年の、これは湘南の海ね。

  
 

ガランガラン、初詣の風景の音

  
僕の恋人

2011年の、初詣。

  
 

ジリリリリリリ目覚ましの音

  
僕の恋人

2011年の、目覚まし時計。

新しい年を告げる、音ばかりだ。

僕の恋人

あなたの部屋の目覚まし時計の音よ。

こんな音だったっけ…?

僕の恋人

分かる?

分かるよ。

僕の恋人

分かる?

分かるよ。

僕の恋人

分からないよね…

ちゃんと聞こえてるんだけどね。

僕の恋人

目覚まし時計が鳴りっぱなしなの。

もう何年鳴り続けてるかな。

僕の恋人

ねぇ。

うん?

僕の恋人

いつ起きるの?

いつだろうね。

  
 

2011年の、病院の音がする。
かすかに目覚ましのベルは鳴り続けている。

  

いつ、目が醒めるかな。

  
 

目覚ましのベルは鳴り続けている。

  

いつ、止められるのかな。

  
 

目覚ましのベルは鳴り続けている。

  

ねぇ、僕の恋人。君は、待たなくてもいいんだよ?

  
 

カチリ、とベルは鳴り止んだ。

  
僕の恋人

私待ってるの。いつか、絶対、きっと。うん、待つ。いつかな。一番初めに何て言おう。そう思うとね、待つのも、楽しい。うん。きっと。

  
 

あらゆる2011年の音が、僕の耳に滑り込み続ける。

  
  
おしまい
閉じる