779話(2011年3月5日 ON AIR)
「春の再会」

作・四夜原茂(第2劇場)

 

空を飛んでいる。風の音。
こなこ、テレビのリポーター調でしゃべる。

  
こなこ

今私は、紀伊半島の大台ケ原山から南の風にあおられて飛び立ちました。
今日はいい天気です。気温もぐんぐん上昇して、お出かけ日和。
みなさんは、いかがお過ごしでしょうか?

あ、白い砂浜が見えてきました。白浜温泉の白良が浜です。
さすがにこの時期に泳いでいる人はいませんが、波打ち際を散歩する家族連れ
が見えます。この後、海に向かいます。紀伊水道を抜けて大阪湾まで、
もう少しです。

  
 

男がマンションのドアを開ける。

  

あ、まずいよ。天気よすぎ。どうしよう。駅前のコンビニでマスク買うことにしよう。

  
 

歩き始める男。

  

でもなぁ、久しぶりに会うのにいきなりマスクじゃまずくないかな。
いやいや、そんな甘っちょろいこと言ってちゃいかん。
去年の今頃のあの惨事を思い出すんだ。一日でティッシュを3箱も空にした、あのつらく苦しい日々。巨大なマスクを買おう。
まてよ、マスクだけでいいのか?ゴーグルは要らないのか?
ウサギが「フランダースの犬」の最終回を見たような顔になってたじゃないか。

  
 

コンビニに入って

  

すみませーん。ゴーグルありますか?それとマスクも。

  
 

風の音。

  
こなこ

街が見えてきました。この街を越えて六甲山まで、あれ、あれ。
あーっと、六甲山まではとどかないようです。だんだん地上に近づいてきました。
私たちの長かった旅はそろそろ終わりを迎えようとしています。
あ、もうすぐ地上なんですが目の前に人間が。あ、あーー。吸い込まれます。
大きな穴に吸い込まれちゃいます。あーーーー。

  
 

男はコンビニの前で立ち止まっている。

  

マスクをつける前に深呼吸して新鮮な空気を吸っとこう、(深呼吸)。
それからこのマスクを・・・・・・ヒクション!
まずい、今吸い込んだんじゃないか。・・・ヒクション!

  
 

洞窟の中。声が響く。

  
こなこ

ここはどこなんでしょうか。洞窟のようなところです。生暖かい風が吹いています。
はるばる紀伊半島からDNAを運んできた私たちの旅は、こんなところで終わってしまうのでしょうか。
いいえ、私はあきらめません。なんとかここを脱出したいと思います。
このネバネバした壁を登ってみます。よいしょ、よいしょ。

ヒクション。来たよ、来ましたよ。あ、鼻の奥のほうで何かが起こってます。
どうしよう。ヒクション。

こなこ

こっちから洞窟が合流しています。巨大な洞窟は二股に分かれていました。
あ、奥のほうからなにかがやってきます。なんだろう。あー!ものすごい勢いで液体が流れてきます。アクション映画でおなじみのシーンです。
もちろん流されまーす。ぶくぶく。

  
 

ゴボゴボと水が流れる。

  

ティッシュ、ティッシュ。(鼻をかむ)ああ、ちょっとすっきりした。

こなこ

危なかった。もう少しでここから転落するところでした。・・明かりが見えます。
やっと出口が見つかったようです。洞窟を出るとそこに、・・・人間がいました。
長い髪の。

  
 

待ち合わせていた人が来た。

  

やあ、久しぶりー。え?洟が出てる?あ、ほんとだ。・・・え?
去年もそうだった?何やってんだろう俺。

  
おわり
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