782話(2011年3月26日 ON AIR)
「新しい町へ」

作・大正まろん

 

そこは駅のホーム。

  

もうすぐだね・・・。

え、電車?

桜。

桜?

ほらこっち。ここから桜の木が見下ろせるの。知ってた?

おー、桜の頭のてっぺんが丸見えだ。

桜の「頭」?

頭。

桜に手とか足とかあるわけ?

幹が足で、枝が手。

顔は?

顔は・・・桜の花?

顔がいっぱいってこと。

そ、顔がうじゃうじゃ。

やだ。それじゃ花が散ったら桜はずっと「顔なし」ってことになっちゃわない?

んー、次は葉っぱが顔になる、とか。

なるほど。

な、あそこ見て、顔が一つほころんでる。

ほんとだ・・・。

次の電車、8分だっけ。飲み物とか買っとかなくていい?

きっと笑ってるね。

え?

桜の顔。笑ってるの。笑いながら生まれて、笑いながら散ってくの。

それはちょっとセツないなぁ。

散らないと次の季節が始まらないんだし。

・・・そうなんだろうけどさ。

あれ、ひょっとしてメソメソしてる?

俺たち夫婦の歴史が全部この町にあるんだなって。

馴染みの美容院もあるし、お隣のイマイちゃんとはツーカーだし、ハタヒロ内科の大先生(おおせんせい)は、夫婦そろってお世話になった・・・。

ゼンさんのモダン焼き、最高だった。

明日香のママが淹れてくれる珈琲も。

明日香のチーズトーストがこれまた美味いんだ・・・。

やめよ。

すげえ好きだったでしょ、チートー(チーズトースト)。

うん。でもきっと新しい町にも、ここと同じじゃないけど、面白い店や、あったかい人や、ホッとする風景がある。きっとあるよ。

俺たちの新しい季節。

すんげー寒いってことだけは確かだけどね。

心にブリザードが吹くってか?

いやいや心の風景じゃなくて。実際この町より随分と北上するから。

不動産屋の兄ちゃん、桜咲くの5月とか言ってたもんな。

今日、見れてよかった。

一つだけだけど。

・・・さよなら、さよなら、さようなら~!!!

(小声で)おい。なにやってんの。

町にご挨拶。

駅員さんこっち見てるよ。

えへへ(満足そうに)すっきりした。やってみれば?

え俺?俺は遠慮しとく。

あ、そう。じゃあ私お茶買ってこよっかな。

え、いや、あの、待って、ああ、どうしよ・・・。

なによ。

(町にむかって)さようなら~、ありがとう、いってきまーす!!!

あ、駅員さんこっち来た。

うそまじ。

うっそー。

もう、なに。

・・・行こっか。

うん。

  
終わってまた始まる
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