789話(2011年5月14日 ON AIR)
「ご一行様」

作・Sarah
ゲスト出演・蔵本真見(突劇金魚)

 

旅館の一室から賑やかに酒を酌み交わす声がする。スッと障子の開く音。

女が出て来て、

障子はまた閉まる。部屋の前を通りがかった旅館の客らしき男が声をかける。

  

にぎやかですね

すみません。うるさかったでしょうか?

いえ、とんでもない。こんな辺鄙な旅館に、珍しいなぁと思って。ご旅行ですか?

ええ。実は・・私が明日お嫁に行くので、親族で集まっているんです

それは、おめでとうございます

・・ありがとうございます

失礼ですが・・花嫁さんだというのに、余り嬉しくなさそうですね

親同士が決めたことなので。今時、おかしいでしょ。
相手の顔もまともにみたことないんですよ

それは・・厳しいお家柄なんですね

  
 

ピチャンとどこかで水滴の落ちる音がする。

  

あなたは、どうしてここに?

写真をね、撮りたくって

写真ですか?

僕、こうみえてもカメラマン志望なんです。こういう田舎が好きで。
時々、不思議なものが撮れたりしてね

不思議なもの?

その土地ならではの言い伝えってあるじゃないですか。あの木には精霊が宿っているとか、あの石に触ると病気が治るとか。そういうものを写真に収めているとね。
時々、写るんですよ・・この世のものではない何かが

この世のものではない、何か

  
 

女は黙り込む。ピチャンとまたどこかで水滴が落ちる。

  

・・あの、怖がらせてしまいましたか

いえ羨ましいです。なにかに打ち込めるって素敵だと思います。私には何もないから

そんなたいしたものじゃないんです。昔っから好奇心だけは強くてね。
だから、そういう ものについ興味が

・・今日はなにか撮られてきたんですか?

いや、今日はあいにく天気がね・・

ああ、そうでしたね

まだ梅雨には少し早いんですが・・しかも日は差してるのにザーザー降ってきて。
所謂、狐の嫁入りってやつですね

え?(急に驚く)

あの・・なにか?

・・なにも

  
 

水滴が続けて落ちる音。

  

・・そうだ。写真を撮って差し上げましょう

え、でも

ポラロイドも持って来てるんですよ。独身最後の写真。どうです?

では

じゃあ、撮りますよ。笑って

  
 

カメラのシャッターを切る音。ポラロイド写真が出てくる。

  

もう少ししたら見れますよ。これは記念に

いえ、あなたが持っていて下さい

ですが

あなたに持っていて欲しいんです

わかりました・・・ああ、見えてきましたよ・・これは・・(驚く)

独身最後の日に、こんな私でも人の役に立てて良かったです

あの・・これって・・

本当は禁止されているんですが、せめてもの親への抵抗です

・・あなたは

  
 

酒を酌み交わす賑やかな音がどんどん大きくなっていく。

  

頑張って下さいね。写真

  
 

音はさらに大きくなっていく。男は酒に酔ったかのような目眩におそわれる。
突然無音。
小鳥の鳴き声。気がつくと朝になっている。男は、自分の部屋の布団で目が覚める。

  

・・そうだ!昨日の写真は!

  
 

男があわてて、手に握っていた写真をみる。

  

葉っぱ・・?

  
 

写真を持っていたはずの手には、木の葉が一枚握りしめられている。
障子を開けて、男は廊下に出る。昨晩の騒ぎはなかったかのように静まりかえっている。
また、季節外れの雨が振り出し、男はふいに遠くに灯火が見えた気がする。

  
  
END
閉じる