797話(2011年7月9日 ON AIR)
「海と陸」

作・村田絵美(Gravity Vanished)

 

浜辺。
20代後半の女性が、コンクリートの突堤に座り、一人で海を眺めている。
緩やかな風にかさつくビニール袋には、つまみや酒が入っている。
少し乱暴に、ビニールから缶を取り出す女性。
傍らには、既に空になった空き瓶が置いてある。

  

おーい。こんなとこにいたんだ。

・・・。

ごめんごめん。待った?

・・・。

あ、ほら、お前の好きなお菓子買って・・・あ。同じの、買ってたか。

うるさい。

え。

・・・あれ。(指をさす)

  
 

少し離れた突堤に、少年たちがたむろしている。

  

ああ、若いんだから。仕方ないよ。

ガキがつるんで、歌って叫んで。

高校生かな。

中学生かもよ。最近の子供はデカイから。

  
 

花火が上がる。

  

あーあ、怒られるな。

こんな明るい中で花火上げたって、何にも見えないのに。

別に花火っていうか、音立てたいだけでしょ。

そんなに気づいて欲しいわけ?

気づいて欲しいっていうか・・・。

馬鹿みたいに大声出して、花火打ち上げて、笑い合って。

  
 

<また花火が上がる。/p>

  

何が嫌って、あいつら、笑ってないのよ。笑ってるけど、笑ってないの。
口を開いて、声張り上げてるだけで、一つも楽しそうじゃない。
それが、すごく、気持ち悪い・・・。

気持ち悪いって・・・あ!お前、もうそんなに飲んでたのか!

だって遅かったんだもん。・・・う、おええ。

うわ、ちょっと、お前なあ!

  
 

波の音が静かに聞こえてくる。

  

久しぶりに会うとこれだからなあ。

ごめん。

別にいいよ。しかし、変わらないね、ここは。

うん。ほら、あそこのテトラポットの言葉、悲しくない?「アブナイ・キケン」って、もう、誰も泳がないのにね、こんなとこ。

挟まれちゃったからなあ、新しい海水浴場に。

でも、こっちの方が好きだな、私は。ここに来るまでの道も、情緒あってさ。

あのやたら耳のでかい犬、見た?

見た見た。元気そうだったね。あと、マンションから、聞こえる、親子喧嘩の声とか。

あの家、いっつも喧嘩してるよな。

なんにも変わらない。ちっさな虫が、私じゃなくて、あんたの頭にばっかりたかってくるのも。

うわ、ほんとだ。ああ、もううっとうしい。(払いのけようとする)

ねえ、もうすぐ日が沈むね。

眩しくない太陽って、なんか偽物みたいだな。

うん。

・・・。

・・・海は、どうして陸に上がりたがるんだろう。

うん?

海はさ、どうして陸に上がりたがるんだろう。ああやって、何度も何度も。

一緒になりたいからじゃない。

うわ、ロマンチック(きもっ)。

違う?

馬鹿みたい。それで岩は削れるし、荒れた時なんて、陸も汚されて、沢山の人が辛い思いして・・・。いい迷惑よ。

  
 

少しの沈黙。

  

<足、冷やそっかな。(砂浜に入っていく)/p>

え、ちょっと、やめときなよ。砂、汚いでしょ?ゴミだらけだよ。

昔からそうだっただろ、ほら。来なって。

  
 

足を海水に浸ける二人。

  

あー。気持ちいいー。

冷たい・・・。でも、以外と水は綺麗かも。

台風の後の海ってさ、きったないんだ。もう、泥だらけ、瓦礫やゴミがたっくさん浮いてて。

そうなんだ。

それ見たとにさ、ああ、こいつもちゃんと痛い思いしてるんだなあって思ったんだ。陸を傷つけた分、海だって苦しいんだって。

そうかな。

多分。

言いたいことはわかるけど、納得できない。

俺もだよ。でも、それでも海は陸に上がりたがる。それはきっと、海が、陸を好きだからだと思うんだ。

  
 

遠くで聞こえる電車の音。

  

・・・暗くなってきた。

帰る?

まだまだ。酒もつまみもたっぷり買ってあるから。

じゃあ、飲むか。

うん。

さっきは、お前の嫌いなものの話を聞いたから、代わりに俺の好きなものの話をするよ。俺が好きなのは、あの、遠くで聞こえる電車の音。ガタンゴトン、ガタンゴトンって、本当にそう聞こえる。これが、昔からずっと好きだったんだ。

私も、好きだった。昔から。

よし、乾杯しよう。

なにに?

陸と海に。

(微笑んで)海と陸に。

  
  
閉じる