800話(2011年7月30日 ON AIR)
「完璧な仕立て屋」

作・Sarah

 

雲一つない晴れた日に。
この街の外れにある一風変わった仕立て屋に、今日もひとりの女性が訪れる。
カランカランと、お店の扉が開かれる音。

  
仕立て屋

いらっしゃいませ。『完璧な仕立て屋』へ、ようこそ

あなたが『完璧な仕立て屋』さん・・ですか?

仕立て屋

その通り。身長 159.5センチの貴女に,67.3センチの私では少々頼りなく見えるかもしれませんが

どうして私の身長を

仕立て屋

私もあと 1メートルあれば、いつもより少し早く朝が訪れて仕事もはかどるんですが

朝が、ですか

仕立て屋

背丈があれば、あの丘から昇る太陽が毎朝今より少しだけ早くみれますからね。
さぁ、どうぞこちらの仕立て部屋へ。しかし貴女とは気が合いそうです

どうして?

仕立て屋

貴女の腕と私の身長。丁度おんなじです。 67.3センチ

見ただけでわかるんですね

仕立て屋

『完璧な仕立て屋』ですからね。では仕立てましょう

まだ注文もなにも・・

仕立て屋

大丈夫です。ご所望の服は分かっておりますので

そんなことまで分かるんですか?

仕立て屋

勿論ですよ。何故なら

『完璧な仕立て屋』さん、だからですね

仕立て屋

ほら、貴女とは仲良くなれそうだ。まずは・・そうですね。
今日はまた一段と良いお天気だ。あの空でワンピースを作りましょう

空で?

仕立て屋

パフスリーブの袖に・・そうだ、裾には雲でボリュームを

  
 

チョキチョキと空を迷うことなく切り取る仕立て屋。
裁縫箱から空色の糸が出て来てシュッシュッと軽快なスピードで器用に縫っていく。
空のワンピースはあっという間に出来上がる。

  
仕立て屋

どうです?ほら、あなたにぴったりだ。でもまだ足りないなぁ。確かここに・・
(戸棚をごそごそと探る)・・あった!この虹で帽子をつくりましょう

  
 

チョキチョキ、シュッシュッ。
瞬く間に虹の帽子が出来上がる。

  
仕立て屋

あとは靴です。この貝殻をあしらって

  
 

チョキチョキ、シュッシュッ。
貝殻のサンダルが出来上がる。

  
仕立て屋

さ、どうぞ。あちらのフィッティングルームで

あ、はい

  
 

あっけにとられていた女性は我に返り、フィッティングルームのカーテンを開け着替えに入る。

  
仕立て屋

『完璧な仕立て』ってなんだと思いますか?

(着替えながら)完璧な仕立て・・ですか?

仕立て屋

『完璧な仕立て』っていうのはね『完璧』ではないことなんです。
自由に着られるように、仕上げに僅かな余白を残す。それが私のモットーです

・・あの、着れました

  
 

カーテンを開ける女性。
先ほどあったはずの部屋は消え、目の前には穏やかに波が打ち寄せる白い砂浜が広がっている。

  

さっきの仕立て部屋は?それに、ここは・・

仕立て屋

とても良くお似合いです。この海で待っている方がいるのでしょう?ほら、あそこに

  
 

遠くに人影が見える。

  
仕立て屋

想いが真っ直ぐに届く服を・・あとは、貴女が着こなすだけです

はい

  
 

砂を踏みしめる音。女性は一歩、また一歩とそのシルエットに向かって歩いていく。

  
  
END
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