820話(2011年12月17日 ON AIR)
「マシン家族」

作・虎本 剛(ステージタイガー)

  
 

仰々しい機械音がする。

  

博士。コーヒー、もうすぐですから。

博士

…。

なんですか話って。まだ、この研究室の掃除もありますし。

博士

もう、そんな事はいいんだ。

冗談を。新聞一つ取りに行けないくせに。

博士

(さえぎるように)もういいんだ。

あの。

博士

明日から僕たちは、別々の生活をするんだ。

…。

博士

君がここで過ごすのは今日で最後なんだ。

私、メイドとして何か問題が?

博士

実は。君は、人間じゃない。

  
 

機械音が空しく鳴り響く。

  
博士

君はメイド用のロボットなんだ。

なにを…。

博士

僕が開発し、明日の納期に向けてテストを続けてきたんだ。

あの。私、人間です。

博士

よく考えろ。どこの世界に「イザナギ1号」なんて名前の女がいるんだ!?

そ、そうなんですか?(機械音)

博士

人間ってのは、そんな一々、カシャンカシャン言わないんだ!

え!(煙の出る音)

博士

驚いた時に煙も出ない!

あ、コーヒーが出来ました。

  
 

女、口を開き、コーヒーを注ぐ。

  
博士

口からコーヒーをいれてくれる人間はいない!

そんなっ!

博士

熱いっ! 途中で喋るな。

すいません。

博士

人間てのは、君みたいに耐熱加工されてないんだ。ジェットエンジンもついてないし、肘からミサイルも出ない。

え? もしやトランスフォームも?

博士

人間はガォークにもバトロイドにもならない! 君みたいに5体合体なんて夢のまた夢さ。

知らなかった。ずっと普通だと。

博士

本当は一番最初に教えるべきだった。でも、出来なかった。すまない。

  
 

機械音が空しく鳴り響く。

  

頭をあげて下さい。

博士

私、よく考えると、自分の記憶が無いんです。誰も知らないんです。うすうす、機械みたいだなって思ってました。でも、博士の事を考えて働く時だけは忘れられたんです。今日ご飯食べたかな? お風呂に入ってくれたかな?って。あ。これって家族みたいだなって。私、やっぱり人間だって思えたんです。

博士

…同じだよ。

え?

博士

でもね。僕はそんなできた男じゃない。

博士。

博士

僕はずっと一人で研究ばかりしてきた。君なんかよりずっと機械みたいな生活をしてきた。僕は…。

充分、人間です。

博士

そうかな。

そんな顔は、機械にはできません。

博士

(微笑む)ありがとう。

明日から一人で大丈夫ですか?

博士

バカにするなよ。

どちらへ?

博士

新聞、僕が取って来る。

コーヒー、冷めましたね。

  
 

博士、出て行く。
鳴り響く機械の音。

  

その日、私「イザナギ1号」は生まれて初めて、私の手でコーヒーを淹れました。それは、なんだかいつもよりとても暖かいものでした。私に積んである2基のジェットエンジンよりも、ニトロのミサイルなんかより暖かいものでした。

  
  
終わり。