824話(2012年1月14日 ON AIR)
「ウソツキ男、ウソツキ女」

作・北澤あさこ (劇団Planet Company)

  
 

田舎町のバス停。
ベンチで男と女がバスを待っている。
女は本を読んでいる。

  

なんていうかよ。

(読みながら)んー?

進歩ないな。ゼロ進歩だ、ここは。

そう?

だって、バス、いまだ一時間に一本て。

そだねー。

向こうなんてすげーぞ。一〇分に一本。いや、五分かな。

ふーん。

もう、こう、バスがバス停に列をなして渋滞が起こるくらいだ。

そうなんだー。

・・聞けよ。

聞いてる聞いてる。

それは「聞いてる」んじゃない、ただ「聞こえてる」だけだろ。

んー。

置け!まずその本を置け!

もー邪魔しないで。

お前、何しに来たんだよ。

来いって言ったのはそっちでしょ。

・・・。さあ、帰ったら何しようかなー。有給たまっちゃっててさ。

そー。

まあ俺としては、もうちょっとゆっくりしてもいいんだけど。

忙しいんでしょ。彼女もいるし。

お、おう、ま、あいつは、俺がいなきゃダメっつーか。

そっかー。

この前も、クリスマス、仕事が入ったって言ったら泣いちゃって。

へー。

でも俺が仕事抜けるわけにいかねーじゃん?そしたらあいつ、マンションで準備してくれてんだよ!チキンとか、こんなでっかいツリーとか。あーあれ三メーターくらいあったな。もう、天井に刺さってた。

よかったねー。

・・・・俺が正月こっち帰るって言ったら、「さみしいからやだ」って、もうすげーごねて!駅まで追っかけてきてさ!

おー。

新幹線とか超追いかけんだよ!ホームを、「やだー!」って言いながら走るの!すごい速さなの!で、ホームの端のとこまできたら、そこですごい跳躍をして、窓のところに、ベターってしがみついて「いかないでー」って!もうまいっちゃったよ。

大変だったねー。

・・・。

どしたの?

何なのお前。

何が?

んなわけないじゃん。そんな女いるか。っていうか、なんでそういうことするわけ?

そういうことって?

ほんとは知ってんだろ、お袋に聞いたんだろ、別れたって。

聞いたよ。

言えよ、俺、ずっと、馬鹿みたいじゃねーか。休み中ずっとさ。

見送れなんて言って、何かと思ったらそういう話?

すげー格好悪いじゃん。

・・・あのさ。

なんだよ。

全部知ってるから。

な、何を?

だから、全部。

全部ってなんだよ。

有給なんかたまってないし会社で期待されてるわけでもない。

え?え?

おしゃれなマンションに住んでるっていうのも、最近英会話に通い始めたっていうのも、そこの外国人講師のお姉さんに口説かれたっていうのも嘘。

・・・誰に聞いた?

わかるよ。

なんで?

何年一緒にいたと思ってるの。昔からあんたってそうじゃん。

え、じゃあ、お前、全部わかってて聞いてたの?

うん。

なんで言わねーんだよ!

だって嘘つくんだもん。そっちが嘘つくから、私も嘘ついたの。悪い?

・・くそー。

  
 

バスが来る。

  

あ。

ほら、来たよ。行ってらっしゃい。

・・・俺、進歩ねーな。ゼロ進歩だ。ウソツキだし。

嘘つけてないんだから、逆に正直なんじゃない?

やだなそれ。

それに、いいと思うよ。無理に進歩しなくても。この町みたいじゃん、悪くないって。

そうか?

行ってらっしゃい。

行ってくるわ。

  
 

男がバスに乗り、バスのドアが閉まる。

  
  
  
終わり。