843話(2012年5月26日 ON AIR)
「毎日が記念日」

作・ナカタアカネ
ゲスト出演・ののあざみ

  
 

けたたましい、ベルの音。
もうすぐ電車が発車する合図なのか、急いで階段を駆け上がる足音。

  

(息を切らしながら)ちょっと・・・・待って・・・・・。

  
 

しかし、無情にもドアが締まり、ガタンゴトンと行ってしまう。

  

ええ・・・・・・・そりゃないよ・・・・・・。

  
 

息が上がって、少し苦しそうにドカッとホームのベンチに座る。
勢い良く座った拍子に、隣に座っている女にぶつかる。

  

あ・・・・・すみません・・・・・あれ・・・・・・寝ちゃってる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

あの・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・あの・・・・・・・。

  
 

男、思わず女の肩を叩く。

  

もう・・・・・・何!?

わっ・・・・・すみません。

(やや不機嫌そうに)・・・・・何ですか?

あの・・・・・終電・・・・・・。

終電・・・・・・・そうだ、何時だっけ!

さっき・・・・・・行っちゃったけど。

ウソ!?

・・・・・・・ホント。

  
 

女、大きなため息をつく。

  

酔っ払った、大丈夫?・・・・・・家、遠いの?

まあまあ・・・・・・・って、ナンパだったらお断りだからね。

そ、そりゃないよ・・・・・心配して聞いたのに酷いなあ。

そう?

そうだよ・・・・・そうじゃなかったら、駅員でもないのに起こしたりしないって。

あ・・・・・そっか・・・・・・それならいいんだけど。

わかってくれたら、それでいいんだけどさ。

(ため息混じりに)あ・・・・・・・日付変わちゃった。

わっ!?

(驚いて)・・・・・・・何?

・・・・・・・忘れた。

え?

ケーキ・・・・・・・仕事忙しくって・・・・・つい。
こんな時間じゃ・・・・・・・どこも、空いてないだろうし。
もう・・・・・最低だなあ。

お土産に・・・・・・・頼まれてたの?

そういう訳じゃないんだけど・・・・・・・・・家族の誕生日で。

ああ・・・・・・・そうなんだ。

ダメだなあ・・・・・・オレ。

そんな落ち込まなくても、大丈夫。

(泣きそうに)だってさあ・・・・・・・・せっかくの記念日だよ・・・・・・・。

(遮るように)開いてるとこ、あるから。

え・・・・・・・ホント?

商店街の中通りの端っこにあるんだけどね。

良かったあ・・・・・・。

(思わず笑って)さっきはごめんなさい。

え?

ナンパ扱いしちゃって・・・・・・こんな家族思いの人、疑っちゃって。

いやいいよ、いいこと教えてもらったし。

こっちこそ、いいこと教えてもらっちゃって・・・・有難う。

え?

あたし・・・・・・・・実は、ケーキ作る仕事してて。

あ・・・・・えーと・・・・パティ・・・シエ?だっけ?

そうそう。

わあ・・・・・すごいじゃない。

人と休みはなかなか合わないし・・・・・・朝は早いし、立ちっぱなしで、腰は痛いし・・・・・キツイんだよね、意外と。

そっか・・・・・大変なんだなあ。

って・・・・・・・最近、疲れてたんだけど・・・・・
さっきもつい居眠りして終電乗り過ごしちゃったし。
ささやかな事かもしれないけど・・・・・
誰かの記念日のお手伝い出来てるのかもって。
あなたのお陰で・・・・そう思えちゃって・・・・・有難う。

いや・・・・・そんな。

じゃ、行きましょう。

え・・・・・・・いいの?

案内するわよ・・・・・・どうせタクシーで帰るんだもん。
少しおまけしてもらえるように頼んどく。

有難う。

あ、メッセージもこの際、私チョコレートで書くから。
後で名前教えて。

(笑いながら)名前だとちょっと恥ずかしいかな。

え?

「お母さん、お誕生日おめでとう」でいいよ。

お母さん・・・・・・・てっきり奥さんか子供かと。

残念ながら独身・・・・・毎日、こんな遅いんじゃ出会いなんてナイナイ。

そうなの?

まあね。

あ・・・・・もうそろそろ急がないと閉まる時間かも。

えっ!?

なーんてね、でも急ぎましょう。

ちょっと、待ってよ。

  
 

女が足早に行くのを追いかける男。

  
  
  
おわり。