849話(2012年7月7日 ON AIR)
「星の重圧」

作・山内直哉
ゲスト出演・今池由佳(ムーンビームマシン)

  
 

銀河の真ん中
宇宙の喧騒
遠くで宇宙ゴミが飛び交う音

  
刑事

織姫さんですよね

織姫

どちら様?

刑事

刑事です

織姫

何でしょう

刑事

デネブさんが事故でお亡くなりになられました

織姫

え、デネブさんって

刑事

ええ、夏の大三角形の大切な一角だったのに

織姫

そうですか…彼女、亡くなったんですか…

刑事

ちなみに、七夕の夜って何されてました? あくまで形式上の質問です

織姫

え、事故じゃないんですか?

刑事

彼女、宇宙ゴミに激突して亡くなったんですが、遺体にもう一つ突き飛ばされたような跡がありまして…七夕の夜は何を?

織姫

天の川で彦星さんとお会いしていました

刑事

そのあとは?

織姫

帰りました

刑事

帰り道、誰かとお会いしていませんか?

織姫

いえ

刑事

天の川の外れでこんなICレコーダーが発見されまして

織姫

(息を呑む)

刑事

ご存知ですよね。デネブさんのものです。これにあなたの声が録音されています。聴いてみましょう

  
 

刑事、再生する
織姫の声が流れる
少し聞き取りにくい

  
織姫

うん、確かに確かに。でも、短冊に願い事書かれても、私たちどうしようも出来ないじゃない。願い事なんて叶わないんだからさ。星に願い事してる暇があったら自分で努力しろよって。その辺、どう思う? そこ、誰かいるの!?

  
 

録音が途切れる

  
刑事

あなたの声ですよね?

織姫

いいえ

刑事

これはあなたと彦星さんとの会話です

織姫

何でそう言い切れるんですか?

刑事

"短冊に"願い事書かれても、"私たち"どうしようも出来ない。短冊に願いを託されるのは、あなたたちだけです

織姫

今のが私の声だとしても、私が彼女を突き飛ばしたことにはならないですよね

刑事

デネブさんは会話を録音し、あなたを脅したんです。「彦星さんと会うのをやめないとこの録音をばら撒くわよ」あなたは咄嗟に、この録音がバレるとマズイと思い、彼女を突き飛ばした。違いますか?

織姫

私がやったという証拠はあるんですか?

刑事

残念ながら、証拠はありません。ただ、イメージが大切な人の犯行だということは間違いないでしょう。"願い事なんて叶わない"という言葉…それを聞かれただけで、突き飛ばしてしまう人は、短冊に願いを託された男女二人だけです…まだ続けますか

織姫

もういいです

刑事

それは自白と考えていいですか

織姫

…はい

  
 

刑事、無線機を使う

  
刑事

(無線に)えー、こちらデカ。ただ今、ホシ、検挙しました。事件の発端は、三角関係。夏の大三角関係、といったところです

  
 

刑事、無線機を切る

  
織姫

刑事さん、私、子供の頃、スターになることに何の疑問も抱かず、自分で『七夕さま』を歌っているような子だったんです―

  
 

子供の頃の織姫の歌声(歌は『七夕さま』)
(一番)ささの葉サラサラ/軒端に揺れる/お星さまキラキラ/金銀砂子
(二番)五色の短冊/わたしが書いた/お星さまキラキラ/空から見てる
その歌声に今の織姫の語りが被る

  
織姫

地球の人たちが書く短冊を見て、私が叶えてあげる!って思ってました。でも、そんな世界じゃないって分かって来たんです。だんだん、みんなの希望を背負うことが負担になって来ました。イメージなんてどうでも良かったんです。ただ、すべてを終わりにしたかったんです

刑事

そうだったんですか…すべて、終わりましたね

織姫

願い事って叶うもんですね