855話(2012年8月18日 ON AIR)
「クレヨンを食べるということ」

作・山内直哉

  
 

海岸
波の音
クレヨンを食べる音
そこにマイクの声が被る(広い会場で講演をしているような響き)
(※そのマイクの声を男Nと表記します。男Nと男は同一人物です)

  
男N

私が海岸に出ると、一人の女性がいました。何かを食べていました。
近づいて見てみると、その女性は、クレヨンを食べていました

(食べるのを中断して)…何ですか?

…やめた方がいいんじゃないですか?

何をですか?

クレヨン。お腹壊しますよ

クレヨン食べてお腹壊したことあるんですか?

ないです。クレヨンを食べたことがないです

…あなたは、何をしているんですか?

僕は船を探しています

海の向こうに行きたいんですか?

はい。あなたも?

はい

男N

彼女は美人でした。しかも、海の向こうに行きたいという同じ夢を持っていました。
つまり、私のタイプでした。クレヨンさえ食べてなければ

あなたも一本どうですか?

えっ?

どれでも好きな色

いや、僕は…

船を待っていても、いつ来るか分かりませんよ

  

 

間(波の音)

  

ちなみに、何色が一番美味しいの?

黒色です

黒色…でも、全然黒色食べてないよね

今は食べません

何で?

虹を作るから。黒色を食べると虹が真っ黒になっちゃうフフフ

男N

あー、違う生き物だなって思いました。
しかし、ココで逃げていたら、今の私はないんですよ

虹を作るって、どういうこと?

七色(ななしょく)のクレヨンを食べて虹のうたを歌うと、虹が出来るんじゃないかなーって。その虹を渡ったら海の向こうに行けるんじゃないかなーって

…え?

一緒に、どうですか?

…虹を作るんですか?

私も色々考えたんです。ココで船が来るのを待つか、自分で船を作るか、自力で泳いで行くか。でも、私は虹を作ってみることにしたんです

…僕にも、作れますかね

一緒にクレヨン食べて虹のうたを歌いましょう!

男N

歌いましょう!って。可愛い声で言うんですよ。クレヨン、食いましたよ。七色。まあ、健康のためには、一日三食がいいんだろうけど(←この男なりのジョークです)、七色食いましたよ。虹のうたも、幸せな気分になるメロディーで。すぐに覚えて歌いました。するとねえ、口の中から、マア綺麗な虹が、出たんですよ

  

 

虹のうたを歌う男女
唄声と共に口から綺麗な虹が出る
虹のうたのメロディーはメンデルスゾーンの結婚行進曲
歌詞は♪ラララ時々♪ランランでメロディーに合わせて

  
男N

私たちは、虹の上をザクザク歩きました。最初のうちはねえ、これは本当に夢に向かっているんだろうか、クレヨン食って死んでしまったんじゃないか、それはマア、赤から紫まで思考がグルグルしましたよ。でも、そんな中、心強かったのは、違う生き物が隣にいたってことです。これは間違いないです。あっ、そろそろお時間ですか

  

 

ボタン一つですべての音が消える
そして、液晶スクリーンが収納される音
VTRを見ながら講義をしていたようだ

  
男N

えー、皆さん、私の拙い講義を最後まで聞いていただき、ありがとうございます。最後に質問がありましたら、遠慮なくどうぞ。お茶菓子も、どうぞ食べて下さい。残っても困りますから。特にね、黒色が旨いんですよ

  
  
  
  
終わり