867話(2012年11月10日 ON AIR)

「両足の気持ち」

作・ピンク地底人3号
部屋。
左足
おはよう。右足君。
右足
おはよう。左足君。
左足
今日はどこへ行くのかな?
右足
きっと今日も図書館さ。
narration">両足が歩き出す音がする。左足
最近図書館に行ってばかりだね。
右足
あそこが一番いいんだよ、冷房もついているし。
居座っていても誰も文句言わないし。
それに何より図書館行くだけならタダだしね。
左足
そうそれ。それが一番だ。お金、ないしね。
右足
そう。お金、ないね。
左足
この前読んだ本、面白かったね。あれの続きを読むんだろうな。
右足
そうだね。あれを読み終えたら頃にはきっと今日一日が終わってる。
左足
暇だと一日が長いからね。
ドアの閉まる音。マンションの廊下を歩く音。
右足
ついこの間まで時間がない時間がないって言っていたのに。
左足
毎日毎日歩き回って。帰ってきたらクタクタさ。
右足
君より僕の方がクタクタだったさ。体がね。右寄りなんだよ。
だから右足に負担がかかる。革靴の底だってスリ蹴りが激しい。
左足
でももう革靴なんて履かなくていいね。
右足
そうそう、毎日サンダルでお出かけさ。
左足
時間ってあるところにはこんなにもあったんだね。
右足
でももう遅いね。
左足
そうだね。もう遅いね。
右足
もう一度やりなおしてみようか。
左足
あいつと?
右足
うん。あいつと。
エレベーターが到着する音。
左足
無理だよ。俺ら、足だぜ。手じゃないもの。
右足
(笑い)それもそうか。
エレベーターが動き出す音。
左足
きっ俺らはあの時、道を間違えたのさ。
やっぱり俺らはあそこで左に曲がるべきだった・・・
右足
おいおい。ちょっとまってくれよ。左足君。その話はもう何度もしたじゃないか。君は左じゃなく右に曲がることに同意したはずだ。
左足
確かに俺は右に曲がることに同意したよ。でも考えてみてくれよ。
なんていったって俺は右足ではなく左足なんだ。曲がりたいのは左に決まってる。
右足
じゃあ何かい。
やっぱり君は右足である僕が右に曲がったことがいけなかったっていうのかい。
エレベーターが到着する音。廊下を歩き階段を上る音。
左足
そうは言ってない。でも俺らに今、何もないのは事実だろ。
右足
時間ならあるさ。
左足
いらないよ。そんな時間・・・
屋上の扉が開く音。屋上には風が吹いている。
右足
屋上だね。
左足
うん。屋上だ。
右足
飛び降りるのかな。
左足
そうだろうね。
右足
天国は歩けるのかな。
左足
歩けるさ。雲の上を。
すると雨が降り始める。
右足
雨だ。
左足
ああ。雨だ。
右足
あいつ、傘持ってるかな。
左足
・・・持ってないよ。きっと持ってない。
扉の開く音。足音。
終り