878話(2013年1月26日 ON AIR)
「君の料理、僕の左手。」

作・ピンク地底人3号

おはよう。

おはようございます。

おはよう。

おはようございます。

おはよう。

おはようございます。

  
 

ビー!!と仕事が始まるブザーが鳴る。
ガッチャンガッチャンと機械の音がリズムを刻んでいる。

  

仕事中、僕はずっとそのやりとりを考えている。
彼女の長い髪は右耳にかかっている。
とても形の良い、貝殻の形。触れてみたい。

  
同僚

右腕が吹っ飛んだ気分は?

もう慣れた。左手だけでも仕事はできる。

同僚

そう・・・何、考えてる?

この銃が向かう先。

同僚

リビアあたりじゃない?最近、また激しくなってきたみたいだし。

ねぇ。俺は人を殺してる?

同僚

また?

たぶん殺してる。

同僚

あんたは自分の仕事をこなしてる。それでいいじゃない。

俺が、今この流れ作業をやめたなら、誰かの頭が一つ、吹っ飛ばないで済む。

同僚

いいや。吹っ飛ぶよ。あんたの変わりはいくらでもいるんだ。

じゃあ戦争は終わらない?

同僚

地球から人類が全員消えるまで。
あたしたちは、自分で自分を殺そうとしてるんだよ。

君は死にたい?

同僚

まさか。

俺と一緒に仕事やめようか。

同僚

そしたらあたしは餓死しちゃうよ。

旦那さんに食わしてもらえよ。

同僚

甲斐性なしなの。

君はその手で武器なんか作らずに、うまい夕食を作ればいい。
君の作るシチューが旦那さんの身体を支えるんだ。

同僚

あたし、料理下手なの。料理は作らない。あんた彼女は?

いないよ。

同僚

なかなかいい男なんだ。誰か誘ってみなよ。

無理だよ。俺は人殺しの道具を作ってるんだ。

同僚

あんたは考えすぎなんだよ。みんな人殺しだ。銃だけじゃない。
車を作るやつ。飛行機を作るやつ。携帯電話を作るやつ。
言い出したらきりがない。どこかで戦争に繋がってる。
料理を作る女だって例外じゃないさ。
さっきあんたが言ったろ。シチューが身体を支えるって。
どっかの女が作ったシチューを兵士が食う。兵士は女にキスをする。
行ってくるよ。女は言う。行ってらっしゃい。
兵士は肉と人参の甘味を思い出しながら、誰かを血まみれにするんだ。

俺は誰も殺したくない。

同僚

無理だね。憲法はもうない。国民が捨てたんだ。諦めな。さっきも言ったろ。
みんな一緒なんだ。深く考えちゃ駄目だよ。
あの受付の女のことだけを考えたらいい。好きなんだろ?

・・・

同僚

あんたバレバレだよ。

  
 

ビー!!と仕事が終わるブザーが鳴る。

  

さようなら。

さようなら。

さようなら。

さようなら。

  

帰り道、彼女とのやり取りを思い出しながら僕は思う。
彼女の右耳のことを。貝殻が赤く火照る。
僕は左手で銃を作る。彼女は僕のためにシチューを作る。
誰かがどこかで血を流す。
僕は彼女に触れたくてたまらない。
胸が、とても苦しい。

  
 

誰かの声がする。

  

おい。

  
 

銃声が響く。

  
  
  
終わり