897話(2013年6月8日 ON AIR)
「願う階段」

作・ピンク地底人3号

NA

私は階段です。今日も一人、私を上ろうとする人が現れました。

  
 

階段の前に宇宙人がやってくる。

  
宇宙人

こんばんは。

階段

こんばんは。

宇宙人

君は誰?

階段

私は階段です。あなたは?

宇宙人

僕は宇宙人。実は泊まるところを探しているんだ。

階段

そうですか。私を上ったところに部屋があります。今は誰も使っていません。ベッドもそのままです。多少かび臭いでしょうが、あなたさえよければ。

宇宙人

そうか。悪いね。じゃあそうさせてもらうことにするよ。

階段

随分長いこと階段をやってきましたが、宇宙人の方に会うのは初めてです。
地球に何か用ですか?

宇宙人

別に用はないよ。家族と喧嘩してね。ただの家出だよ。

階段

宇宙人も家出をするんですね。

宇宙人

うん。でも家出をしたのはいいものの、さっそく後悔してるんだ。
どうしようもなく寂しい。

階段

家出というのは、そういうものです。
ここに泊まらずに宇宙に帰ったらいかがですか?

宇宙人

そうはいかないよ。僕にだって意地がある。
それに僕は今、どうしようもなく君を上ってみたいんだ。

階段

おかしなことを言いますね。ただの階段ですよ。

宇宙人

実のところ、僕はこれまでの人生で階段を上ったことがないんだよ。

階段

まさか。人は階段を上らないと生きてはいけません。
世界中どこにでも階段はあるんですから。

宇宙人

それは地球の話だろ。

階段

宇宙に階段はないのですか。

宇宙人

それがないんだ。
僕たち宇宙人は、階段を上らなくても空を飛ぶことができるから。

階段

なるほど。確かにそれなら階段は必要ありませんね。

宇宙人

ねぇ。どうやって君を上ればいい?

階段

(笑って)そんなことを言われたのは初めてですよ。

宇宙人

教えてくれないか。

階段

簡単です。あなたのその足で、右、左、右、左、と足を前に踏み出すんです。歩くのと一緒ですよ。歩けば、自然に身体が上がっていきます。
さすがに宇宙人のあなたでも歩くことはできるでしょ。

宇宙人

なるほど。地球人はとても賢い。
ねぇ。君。部屋を貸してもらう代わりに何かお礼がしたいんだけれど。

階段

お礼なんてそんな。ただ私を上ってくれる、それだけで十分です・・・
実はもう誰も私を上ってくれないと思っておりました。
この家は明日、取り壊されるんです。

宇宙人

・・・そうか。だからこの家には誰もいないんだね。
ねぇ。君、もし願いが叶うなら、最後に誰に上ってもらいたい?想像して。

階段

・・・それは。

  
NA

彼はそういうと、いつの間にかあの人になっていました。
この家が出来て以来、あの部屋でずっと暮らしていたあの人に。
懐かしい足音が私をカツカツ響かせます。
私は自分がこの家の階段であったことに、ひたすら感謝しました。

  
あの人

おやすみ。

階段

おやすみなさい。

  
  
終わり