908話(2013年8月24日 ON AIR)
「明け方の天使」

作・ピンク地底人3号

明け方、川沿いの道を車で飛ばしていると天使を轢いてしまった。

  
 

急ブレーキの音。撥ねられる天使。

  

大丈夫ですか。

天使

大丈夫じゃないです!

すぐに救急車呼びますんで。

天使

何してんですか。めっちゃ痛いんですけど。何でぶつかるかなぁ。

すいません。

天使

あなたが僕をちゃんとよけたら、あなた車ごと川に落っこちて死ねたんですよ?

え?

天使

困るんですよ。そういうことされると。あなた死にたがってたじゃないですか。だったらちゃんと僕をよけて死なないと。困るんですよ。そういうことされたら。

どうして私が死にたがってることを知っているんですか。

天使

決まってるじゃないですか。僕、天使ですから。いい感じにあなたを事故らせて、いい感じに死んだあなたを天国へ連れて行こうと思ってたのに。困るんですよ。そういうことされたら。

天使。あなたが。

天使

そうーですよ。困るなぁ。こういうことされると。絶対骨折れてるし。
僕、しばらく仕事できないじゃないですか。

すいません。

天使

完全に翼が折れてます。困るんですよ。こういうことされると。
どうしてくれますか?

ちゃんと責任は取らせていただきます。

天使

言いましたね?あなた言いましたね?じゃあ僕が回復するまで、
代わりに天使をやってください。できますよね?

  
 

電話の音がする。

  

私はその日から天使の仕事をするようになった。

  
 

受話器を取る音。

  
天使

もしもし。僕です。
死にたがってる人は、おうおうにしてあの川沿いの道を飛ばすんです。
待ってるんですよ。飛び出してくる人を。
はい。この前渡した翼。ちゃんとベルトで固定してくださいね。

  

明け方に川沿いの茂みに隠れて、車が通るのを待ち、
よけ切れるギリギリのタイミングで道路に飛び出す。それだけだ。
面白いようにみんな川に落っこちて車の中で溺れてしまった。

  
天使

どうですか。調子は。

みんな私をよけて死んでいきます。

天使

あと一か月だけ頑張ってください。僕の翼の骨も何とかなりそうです。

あっという間に一か月が過ぎた。そして今日、天使の仕事も終わる。あ。

  
 

車のブレーキ音。
中から誰かが飛び出してくる。

  
誰か

大丈夫ですか!

・・・

誰か

ちょっと!起きてください!ちょっと!!あ。

  

薄れゆく意識の中で、男の顔が霞んで見えた。それは私の顔だった。

  
  
終わり