909話(2013年8月31日 ON AIR)
「夏の終わりと僕らのはじまり」

作・ナカタアカネ
ゲスト出演 ・橋本実弥(はちの巣座)

  
 

バスが走ってきて、プシューと音を立てて扉が開く音。
そして、走り去って行くと同時にセミの鳴き声が聞こえてくる。ジジジジ。

  

暑いなあ・・・・・。
(電話をかけて)もしもし・・・・・俺・・・・・うん、今着いたとこ。
何処って・・・・バス停・・・タクシーとか全然見当たらなくってさあ。
うん・・・・・悪いなあ、助かる・・・・・。
え・・・ああ、暑いからなあ、どっか日陰で待っとく、じゃあ。
(電話を終えて)って・・・・ここ何にもないんだけどな。

  
 

ジジジジ。

  

(溜息を付いて)しょうがない・・・・・蝉と一緒に待ちますか。
(座って)よっこいしょっと・・・・・しかし、暑いなあ・・・あの時と一緒だな。

  
 

突然、セミの鳴き声が止む。

  
少女

サトルくん・・・・サトルくん。

・・・・・え?

少女

間に合って良かった・・・・・ちゃんと待っててくれたんだね。

なんだか、すごい荷物だね・・・。

少女

うん・・・・ティッシュとハンカチと、お菓子にトランプも持ってきたもん。
あった・・・(飲んで)はー、生き返るってこういうこというなのね、きっと。

まるで、遠足みたいだね。

少女

遠足じゃないわよ・・・・・家出よ。

家出・・・・・行くとこあるの?

少女

あるわよ・・・・一緒に、連れて行ってもらおうと思って。

一緒にって・・・・・ひょっとして・・・・・。

少女

そう、サトルくんに!

ええっ!?

少女

サトルくん、引越しちゃうんでしょ・・・あたしも連れてってもらおうかと思って。

こ・・・・困るよ。

少女

(遮るように)お願い、連れてって!

だって・・・・遊びに行く訳じゃないし・・・・
別に行きたくて行くわけじゃないよ・・・・・。

少女

だよね・・・・ごめんね・・・・・・・お母さんと喧嘩しちゃったんだ。

そっか・・・・・今頃、お母さん心配してるんじゃない?

少女

帰りたくないなあ・・・・・。

でも・・・・。

少女

それにね・・・・家出するの・・・・喧嘩だけが理由じゃないんだ。

何?

少女

私・・・・・サトルくんのこと・・・・・。

  
 

遮るように、母親の声が聞こえる。

  
母親

マリ・・・・・・ここにいたの、心配したんだから!

少女

お母さん・・・・・ごめんなさい。

母親

もう、皆・・・・心配して探してるんだから、帰るわよ。

少女

でも・・・・。

母親

早く帰らないと、おじいちゃんもおばあちゃんも心配してるんだから。

少女

分かった・・・・サトルくん、手紙書いてね、待ってるから。

うん・・・・・。

  
 

いつしかセミの鳴き声。ジジジジ。

  

でも・・・・・結局、手紙・・・・・書かなかったんだよなあ。

  
 

車のクラクション音。

  

サトルくん。

え?

やっぱり、サトルくん・・・・・・久しぶり元気だった?

マリ・・・・ちゃん?

そう、覚えててくれたんだ。

うん・・・・・でも、どうして?

みんな、同窓会の準備忙しいみたいだから、お迎え立候補したの。

ありがとう・・・またお母さんと喧嘩して、家出してきたのかと思った。

(笑いながら)もう、まだ覚えてたの・・・・・懐かしい。

あのさ・・・あの時、言いかけたことって何だったの?

え?

家出の理由・・・・・喧嘩だけじゃないとかって・・・・。

さあ・・・・・なんだったけ・・・忘れちゃった。

ええ・・・・・なんだよそれ。

いいじゃない忘れたんだから・・・・早く乗らないと置いてくわよ。

ちょっと待ってよ。

  
 

2人のやりとりを、楽しむかのように蝉の鳴き声が大きくなっていく。
ジジジジ。

  
  
  
おわり