911話(2013年9月14日 ON AIR)
「鬼と私」

作・益山貴司

残業で遅くなって帰宅を急いでいると、アパートの入り口に鬼がいた・・・
わ、鬼だ。どうしよ。あれじゃ帰れないよ・・・
とにかく、無視して通り 過ぎちゃお・・・うわ、金棒とか持ってるし・・・

おい

え?

お前だ

私?

そうだ。ちょっと、死んでくれないか?

ええ!いや、ちょっと、無理です・・・

頼むよ

頼まれても無理です

実はさあ、お盆のバカンスで地獄から来たんだけど、
帰れなくなっちゃって。
明日には閻魔様の裁判所に出勤しないとまずいんだわ。
俺、こう見えても公務員なんだよね

知りませんよ、そんなの

なあ、頼むよ。死んだ人間の魂に乗っからないと地獄に帰れないんだわ。
だから、死んで

なんで私なんですか

お前、俺が見えんだろ。なかなか居ねえのよ、そんなやつ。

あの、とにかく、私、ほんとに無理ですから。
見たいドラマがあるから失礼し・・・

  
 

鬼、金棒を地面に叩き付ける。

  

きゃ!

これ、使いたくないんだよね、出来れば。トゲトゲ痛いから

なに、脅してんですか?

脅しってゆうか、自分で楽に死んでくれた方が
こっちも良心が痛まないってゆうか・・・

じゅうぶん脅してるし!

有給も明日で切れるから、ほんと、まずいの

仮病つかって休めばいいじゃないですか

あのね、閻魔様に嘘つくなんて、砂漠で米粒探すより難しいの。
それにね、職務規程でわれわれ鬼が嘘なんかつくと、一発でクビ

なればいいじゃないですか

なら、明日からの生活どうすんの?
地獄の一丁目に買った新築のローンどうすんの?
日曜に彼女と行く三途の川くだりツアーのデート代どうすんの?
お前が責任とってくれんの?

じゃあ、私の生きるはずだった時間、どう責任とってくれるんですか!?

大丈夫。天国に行けるよう手配してあげるから。
そしたら時間なんて無限大のインフィニティ

私は死にません!

  
 

またもや、金棒で地面を叩く音。
屋台のチャルメラの音がする。

  

ラーメン、二つね

あ、一つ、チャーシュー抜きで

肉、ダメなの?

地獄で働いてるとさ、肉なんか食えなくなるのよ。
例えば、針山地獄なんて・・・

分かった。もういい。それ以上いわないで

ほんとにこのラーメン食ったら死んでくれんの?

もう、腹くくったわ、私

ありがとね、ほんと。しかも、ラーメンまでおごってもらっちゃって

なんならおかわりしてもいいわよ

いいねえ

お酒のんだっていいわよ

お、はなせるね。おやじ、そこの鬼殺し、なみなみ一杯!

なにさ、鬼のくせに一杯だなんて。一升いっときなさいよ

いいのかよ。無理すんなよ

どうせ死ぬんだからお金なんてパーッと使わなきゃ。ほれ、いっき!

それじゃあ、お言葉に甘えて。よいしょ!

  
 

鬼、一升瓶を一気飲み。
遠くでチャルメラの音。

  

(べろべろに酔っぱらっている)・・・だからよ、
なんで、同期ばっかり出世してよ、この俺はヒラどまりなんだよ

ほらほら、分かったから。そんなとこに座りこまないで

うるせい!お前に宮仕えの苦しみが分かってたまるか!
もっと酒もってこい!なんか、楽しいことやれ!

はいはい、じゃあ、ゲームしよ

おう!ゲーム大好きだぞ

ピザって十回いって

ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ

では、ここはなんでしょう?

ひざ

ぶー。正解はヒジでした

あー、なんだよ、そうだよ、ここはヒジだよ

嘘ついたね

え?

ヒジのことひざって言ったね

(酔いが一気に冷めて)いや、それは、間違いで・・・

嘘ついたから、クビだね

その、あの、ちくしょう!だまされたんだ!この野郎!

なら閻魔様の前でいいなよ、人間の女に酒飲まされてだまされましたって

いえるか、そんなこと!

じゃあ、嘘ついたらいいじゃん

ますます言えるか!どうすんだおれー(泣き出す)

もう一年、次のお盆まで待ってんのね

ぎゃはははは

なんなの、急に!

こいつ、来年のこといいやがった!