921話(2013年11月23日 ON AIR)
「なおざりな堰」

作・稲田真理(伏兵コード)

  
 

眼前には、轟々と流れる川。
雨が途切れることなく、降り続いている。

  
アキ

ノブオ

え?傘に雨が当たって聞こえない。

  
 

  
アキ

轟々と流れてるねぇ。

ノブオ

寒くないか。

アキ

…寒くないよ。

ノブオ

肩、濡れてないか。

アキ

…濡れてないよ。

ノブオ

そうか。

アキ

ここに沢山の人が見に来たの?

ノブオ

ああ…ツイッターに、写真載せてるやつもいたな。

アキ

へえ。今日は何で来てないの?

ノブオ

避難勧告が出てない、ただの雨だからだろ。

アキ

こんなに轟々と流れてるのに。

ノブオ

うん。

アキ

ああ…避難勧告が出たイベント。

ノブオ

お祭り騒ぎで来てたんでしょ。

  
 

  
アキ

いつ自分の身にふりかかるか分からないのに…。

ノブオ

自分の身に劇的なことは、そうそう起こらんだろうという自信、じゃない。

  
 

アキは手に持っていたススキを、轟々と流れる川に投げ込む。

  
アキ

…早い。もう行っちゃった。

ノブオ

寒くないか。

アキ

寒くない。…寒いの?

ノブオ

いいや。

  
 

ノブオも手に持っていたススキを、轟々と流れる川に投げ込む。

  
アキ

なに、それ。

ノブオ

なにが。

アキ

なんで投げ込んだの。

ノブオ

なんでって…アキと同じことをしただけだよ。

アキ

ススキがどんな想いで流れて行ったか、考えた?

ノブオ

いや、何も感情なんてないだろ。

アキ

あるよ。じゃあさぁ、ススキの末路、考えた?

ノブオ

末路?

アキ

末路。

ノブオ

…母なる海まで流れて自然に帰った、じゃない。

アキ

ふうん。

  
 

(雨が強くなっている)

  
アキ

少し離れてる場所にいたとはいえ、なんで笑ってたの。

ノブオ

え?

アキ

避難勧告が出た時。

ノブオ

ああ…離れてるし

アキ

離れてるし?

ノブオ

今迄にこの川が決壊したことないもの。

アキ

他人事。

ノブオ

他人事?

アキ

自分の身に劇的なことは、そうそう起こらんだろうという自信?

ノブオ

起こらないでしょ。

アキ

自分の身に、劇的なことばかり起こった私を遠まわしにバカにしてる?

ノブオ

してないしてない。

アキ

…じゃあ今私が叫びながら、鉄柵乗り越えて、川に身を投げたらどうする?

ノブオ

アキはしない。

アキ

したら?

ノブオ

アキはしない。思ったとしてもしない。

アキ

へえ。

ノブオ

…思ったの?

アキ

ノブオ

え?傘に雨が当たって聞こえない。聞こえないよ。

  
  
終わり