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| 雪がしんしんと降る空き地で、男と女がにらみ合っている。 |
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女 | あなた、いよいよ今年もこのときがきたわね |
男 | ああ、待ち望んだよ。今年はなかなか雪が積もらなかったからね |
女 | 手加減は一切なしですからね |
男 | わかってる。女だからって容赦はしないからな |
女 | そんなこといってあなた優しいから |
男 | そういうお前こそ、いくら俺を愛しているからってその腕が鈍ることのないようにな |
女 | 愛しているからこその一発で仕留めるわ |
男 | お前こそ優しいんだな |
女 | どうかしら |
男 | 俺は宣言しておこう。まずはお前の右手を狙う |
女 | 心理作戦のつもり? |
男 | まぁ聞けよ。右手の動きを封じたあとは、両足だ。 一歩も動けなくなったところを見計らって一気にやるのさ |
女 | ゾクゾクするわ |
男 | まるで狩りのようだ |
女 | 獲物はあなた |
男 | 仕留めたあとはどうする? |
女 | そうね、グツグツ煮て食べてしまおうかしら |
男 | 怖い女だな |
女 | それはあなたが一番良く知ってるでしょ |
男 | ああ、そうだったな |
女 | 無駄話も飽きてきたわ。そろそろはじめましょう |
男 | いいだろう |
女 | では背中合わせになって10歩進んだら開始よ |
男 | 分かった。準備はいいか |
女 | いつでも |
男 | 数えるぞ |
男女 | 1、2、3、4、5・・ |
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| 数を数え、男と女は足を一歩ずつ雪を踏みしめる。 |
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男女 | 6、7、8、9 |
女 | 今だ! |
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| ドスッという鈍い音。
男の背中に雪の固まりがぶつかって落ちる。 |
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男 | 痛ぇっ!おい、まだ9だっただろ! |
女 | ふふふ、雪合戦ってのはね先手必勝なのよ! |
男 | 怖い女だなぁ! |
女 | それはあなたが一番良く知ってるでしょ! |
男 | こんの!(投げる) |
女 | あ痛っ!ちょっと卑怯じゃない、右手を狙うんじゃなかったの?!顔面にいきなり! ほんとお優しいのね!あなたったたら!(投げる) |
男 | お前には負けるさ!(投げる) |
女 | あなた、どうしてこないだ朝帰りしたの!(投げる) |
男 | うっ、心理作戦か!お前こそいつの間にあのブランドもんのバッグ買ったんだよ!(投げる) |
女 | 酒代にばっかり使うあなたよりマシよ!(投げる) |
男 | 男にはな、付き合いってのがあるんだよ!(投げる) |
女 | 付き合い付き合いって、たまには私を旅行にくらい連れてったらどうなのよ!(投げる) |
男 | お前は知らないかも知んないけどな! 来年の正月には夫婦水入らずでハワイにいけるようにちゃんと積み立てしてんだよ!(投げる) |
女 | そんなの言ってくれたっていいじゃないの!(投げる) |
男 | 愛してる!(投げる) |
女 | 私もよ!愛してる!(投げる) |
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| しばらく投げあうも、お互いに息が切れ雪合戦は終わる。 |
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男 | この勝負、また来年に持ち越しだな・・ |
女 | そうね・・ |
男 | ・・帰るか |
女 | そうね・・今夜は鍋よ。帰ってグツグツ煮て食べちゃいましょ |
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END |