933話(2014年2月15日 ON AIR)

「いのちがけ」

作・ピンク地底人3号
ある晩、台本が書けずに街を彷徨っていると、飲み屋からSが出てくる。
Sは売れっ子脚本家だった。
(少し酔っている様子で)よう。どうしたの?
いや、ちょっと気分転換にね。
何?脚本の?締め切りは?
うん、まぁ明日かな。
え?明日?何枚書けてんの?
・・・うん。それがさ、
(遮って)何?一枚も書けてないの?
おい!それを言うな。これ以上俺を追い込まないでくれ。くそ。今度こそ俺は終わりだ。
まったく信じられないやつだな。どうして君はそうも台本が書けない。
なぜだ。君だって前まで「書けない書けない」って俺と同じように苦しんでいたじゃないか。いったい君と俺と何が違う。寝る間を惜しんで身を削って書いているのに!
何も違わないよ。持ってるものが違うだけだ。
・・・そうか。お前は持ってるんだな。俺にはない脚本の才能を。
おい。ちょっと勘違いしないでくれよ。俺にも才能はないぜ。ただ、
おまえと違って脚本が書けるパソコンを持ってるだけなんだよ。まぁ信じないだろうがな。
どういうことだ。もっとちゃんと説明しろ。
あれ?随分食いつくな。
当たり前だ!気休めでもなんでもいいから、とにかく俺は脚本を書かなきゃならないんだ。
信じる信じないはそのあとだ!
俺の持ってるパソコンとお前の持ってるパソコンは何がどう違う!?
いや。何がどう違うかは俺にもわからないんだ。どこにでもある普通のパソコンで、
ただそのパソコンの前に座れば、いつの間にか台本が書けているんだ。
まぁそんなうまい話がどこにあるって思うだろうけど
(遮って)そのパソコン、どこで手に入る?
・・・(苦笑いしながら)信じるねぇ。
こっちは必至なんだ!
・・・そこだよ。
Sが指さす先には、個人経営の寂れた電気屋がある。
そしてその前で手招きをする老人が、ぽつん。
ほら。おいでって言ってるよ・・・
気が付くと朝だった。目の前には昨日買ったばかりのパソコンがあり、
なんと台本が完成している・・・!俺は狂喜した!
もうあんなに苦しい思いをして台本を書く必要もないんだ!
ここからだ。ここから俺の本当の人生が始まるのだ。
これからは俺の時代だ!みんなが俺の脚本を褒め称える!俺は全知全能の神なんだ!
電話が鳴る。
もしもし。
おはようございます。
あ!おはようございます!大丈夫です。台本、今、書きあがりましたんですぐ送りますね!
いえ、催促の電話ではなくて、Sさんが先ほど亡くなったそうです。
・・・え?
ちょっとまだ死因はわからないんですが、自室で倒れていたみたいで・・・すいません。
こんな時にあれなんでが、Sさんの代わりに書いていただきたい台本がございまして、
それがまぁ締め切りが明日で、かなり切羽詰ってはいるんですが引き受けていただけますね?詳細すぐ送りますんで、すいません。よろしくお願いしますね。
電話が切れる音。
(言い聞かせるように)大丈夫。俺はすぐに台本を書きあげることができるだろう。
俺にはこのパソコンがある。もう、命がけで台本を書く必要はないのだ・・・
カタカタカタとキーボードの音がして、・・・
終わり