937話(2014年3月15日 ON AIR)
「遠距離恋愛の果て」

作・福谷圭祐(匿名劇壇)

  
 

野原。夕暮れ。風の音。男女が二人、やけに離れている。

  

おーい、麻衣子ちゃーん!

おーい、大介くーん!

遠いねー!

遠いねー!

あのさー! 遠距離恋愛って、こういうことではないと思うんだけどー!

えー?

遠距離恋愛ってー、

なにー?

麻衣子ちゃーん!

大介くーん!

遠いよねぇー!

遠いねー!

もうちょっと近づいていいー?

どうしてー?

そっち行くねー!

  
 

男、歩き出す。

  

いやー! 来ないでー!

どうしてー?

遠距離恋愛だからー!

思ってたのと違うんだけどー!

えー?

思ってたのと、

聞こえなーい!

麻衣子ちゃーん!

大介くーん!

何して遊ぶー?

最初はグー! じゃんけんぽーん!

っぽーん!

見えなーい!

チョキー!

なにー?

チョキー!

なにー?

チョキー! 麻衣子ちゃん、何ー?

あたし、B型ー!

何の話してんのー? これ、じゃんけん、何のじゃんけんだったのー?

大介くーん!

麻衣子ちゃーん!

大好きー!

俺も、大好きだよー!

え? 俺も、大介だよー?

いや、違うよー! いや、大介だけどー! 俺も大介って、世界観が怖いよー! 

あたし麻衣子ー!

知ってるー!

イエーイ!

あいつ何が楽しいんだよ。そっち行くねー!

え、やめて!

もう、どうしてー!

恥ずかしいからー!

どういうことー!

近づきすぎると、恥ずかしくて、顔が真っ赤になるからー!
心臓のドキドキが聞こえちゃって、汗の匂いがバレちゃうからー!

そんなの俺、気にしないよー!

あたしが気にするのー!

うるせえな。関係ねえよ。

  
 

男、歩き出す。

  

いや! いや! やめて! 来ないで! 止まって、お願い! 大介くん!

あいつ泣いてんのか?

あたしだって、手を繋いだり、抱き合ったり、キスしたり、したいよ!
でも、まだ、好きすぎて、好きすぎて怖いから! 今はまだ、この距離がいい!

(女と逆方向に歩き出す)

どこ行くのー! 大介くーん! 大介くーん!

反対側から行くわー!

えー?

そこで待ってろよ。

聞こえないよー!

俺も麻衣子ちゃんのこと大好きで、触れてみたいって思ってる。

そこまで離れなくていいよー!

旅してくるわ。ふさわしい男になるために。
地球を一周して、麻衣子ちゃんを背中から抱きしめてあげる。
そのくらいの月日が経ったら、二人の気持ちも落ち着いて、声を張り上げたりしない、
穏やかな恋愛ができるかもな。

何言ってるかわかんないよー!

いってくるわー!

大介くん! 待って! 待ってよ!

  
 

男、走り出す。
女、追いかける。

  

ちょっと! おい! 待てー!

よーし、頑張るぞー! 待ってろよ麻衣子ちゃーん!

あたし、パー出してたから! パー出してたからごめんってぇー!

  
 

二人の距離は、変わらないまま進んでいく。

  
  
  
幕。