940話(2014年4月5日 ON AIR)
「陽のあたる坂道で」

作・ナカタアカネ

  
 

遠くから足音が近付いてきて、ガチャっと自転車のロックを外す音。
荷物をかごに投げ入れて、自転車のスタンド蹴りあげる。

  

よいしょっと。

  
 

ゆっくりと自転車を漕ぎだす。

  

ん?

  
 

自転車、ピタリと止まる。

  

うーん・・・うーん・・・・・。

・・・・・あの。

ちょっと待って、今・・・・大事なところだから!
うーん・・・・・うーん・・・・。

あの・・・・。

もう・・・・今、いいとこだったのに!

ええっ。

気を取り直して・・・・・もう一回・・・・・・・。

あの・・・お取り込み中のとこ、すっごく申し訳ないんですけど。
通してもらえないですか・・・・・そこ。

えっ・・・・・どうして、こんなに頑張ってるのに。

だって、あなたがそこ塞いでるから、降りれないんですけど。

違うルートで降りてもらえないかなあ。

違うルートって・・・・後は階段しかないんですけど・・・・。

ああ・・・だよねえ。

階段道、自転車で降りて行きたくないんですよね・・・
ちょっと通してもらってもいいでしょ。

(渋々と)じゃあ・・・・どうぞ。

どうも・・・・・。

ちょっと待って!

何ですか・・・・・。

君、自転車に乗ったまんま・・・・ここ降りてくの!?

それが、何か?

危ないじゃない・・・・細い坂道だよ、自転車のタイヤの幅しかないようなところを、
押さずに乗って降りちゃうの!?危ないよ・・・・うん、危ないって。

いつも、そうしてますけど。

ホントに!?

(面倒くさそうに)ええ。

すごいなあ・・・・・いや、でもここに自転車は押して降りるように・・・って書いてるじゃない。

そうだけど・・・・・って、あなたも・・・・自転車乗ったまんま
降りようとしてるじゃないですか、さっきから。全然出来ないみたいですけど。

え・・・・わかる?

はい。

君・・・・怖くないの?

えっ・・・・・・もう慣れっこですから、怖くはないです、はい。

うう・・・・・。

やってみたら?

ええっ・・・・・・。

まあ・・・・・・乗ったまんま降りなくても、大丈夫じゃないですか。
何も変わりませんし、ね。

いや、それがダメなんだよ。

えっ。

なんか、毎日毎日・・・・同じことの繰り返しで馴れてきて、
何か新しいことやってみたいなって思っても・・・・・
急に思い切ったこと出来ないじゃない。
怖いし・・・・だから、すっごく小さなこと・・・・思い切ってやってみたいなって。

だから・・・・・この坂道?

まあね・・・・・変だよね。

まあ・・・ちょっとは・・・でも全然大丈夫です。
私も、ちょっとその気持ちわかります。

えっ。

あの頃・・・・・そんな気持ちでね、この坂道を思い切って降りてったんです・・・・・
だから、なんとなくわかります。

あの・・・・邪魔しといてあれだけど、お手本で先に降りて見せてくれる?
で・・・・こんなこと頼めるあれじゃないんだけど、
僕がこの坂道を降りるの見ててもらえないかな・・・・・
今だったら出来そうな気がするから。上手く言えないんだけど・・・・・。

うん、いいですよ・・・・・いきますよ。

  
 

坂道を自転車に乗ったまま降りていく。

  

わー、すごい!

(遠くから)今ですよ、この感じで待ってますから!

うん・・・・・よしっ。

  
 

自転車で下まで降りていく。
拍手で迎えてくれる女。

2人思わず笑みが溢れる。

  
  
  
おわり。