945話(2014年5月10日 ON AIR)
「ミドリ」

作・ナカタアカネ

  
 

ビルの間を吹き抜けていく風の音。
ピチチチと、鳥がさえずりが聞こえる。

  
渡り鳥

ビルばかりの町に、こんな大きな木なんてあったっけ?
去年の今頃には、なかったはずなのに・・・不思議だなあ。

葉っぱ

ふふふ・・・・渡り鳥さん、これが大きな木に見える?

渡り鳥

やあ、こんにちは・・・・勿論。
こんな立派な木なんて・・・この町じゃあ見たことないよ。
前から、君・・・というか、君たちは、ここにいたのかい?
でも、僕が道を間違えるなんて・・・おかしいなあ。

葉っぱ

ふふふ・・・間違ってなんてないわ。
今年から、私たちはここにいるんですもの。

渡り鳥

(驚いて)本当かい?
短い時間でこんなに育つとは・・・驚いたなあ。

葉っぱ

渡り鳥さん・・・実はね、「木」じゃないの、私たち。

渡り鳥

え?え?どういうこと・・・・・木じゃなかったら、なんなんだい?

葉っぱ

私たちは、ただの「葉っぱ」なの。

渡り鳥

ええっ・・・・葉っぱ達が、集まって大きな木のようになっているのかい?

葉っぱ

そうねえ・・・少し違うかな。
私たちは、ビルに生い茂っているのよ。

渡り鳥

ええっ・・・本当だ、もっとテッペンらへんは、普通に建物だ。
しかし、君たちは沢山ここに絡まっているのに、人間は君たちを刈ったり傷つけたりしないのかい?

葉っぱ

その逆よ・・・むしろ、私たちをここに植えたのは人間たちなの。

渡り鳥

人間って、木を切ってばかりだと思ってたけど、面白いことをするもんだ。

葉っぱ

難しいことはよく分からないけれど、大きな街に緑を作るんだって。
私たちを、ここに植えてくれた人が、そう話してたわ。

渡り鳥

何を考えてるかよく分からないものだね・・・面白い土産話が出来たよ。

葉っぱ

もう行ってしまうの?

渡り鳥

ああ・・・・・もう少し飛んでおかないと嵐がやってきたら大変だからね。

葉っぱ

そう・・・寂しいわ。

渡り鳥

君には、こんなに多くの仲間達がいるじゃないか。

葉っぱ

それはそうなんだけど・・・・でも、何もお話してくれないの・・・。

渡り鳥

何故?

葉っぱ

きっと・・・・わたしが皆と違うからだわ。

渡り鳥

え?

葉っぱ

わたしと周りを比べてみて・・・・皆は形が大きいでしょう?
茎もわたしのようにカサカサじゃないし、なめらかで立派・・・・そして、全体が鮮やかな色でツヤツヤと輝いてる。

渡り鳥

言われてみればそうだねえ・・・・・・・・まるで作られたみたいだ。

葉っぱ

それに比べてわたしときたら、色は所々くすんでいるし、皆みたいに輝いていないもの・・・・。

  
 

パタパタと羽ばたく音。

  
葉っぱ

渡り鳥さん、何をしているの・・・・みんなを引っ張るのはやめて!?

渡り鳥

驚かせて悪い・・・・残念ながら、彼らを引っ張って、ちぎれたとしても彼らは何も痛みを感じたりしないだろうね。

葉っぱ

どういうことなの?

渡り鳥

残念ながら、彼らは君みたいに生きちゃいないのさ・・・作り物だ。

葉っぱ

え・・・・・・。

渡り鳥

人間って・・・全くよく分からないもんだね。
街に緑を作るのに、作り物の葉っぱを植えるなんてさ。
そろそろ・・・行かなくちゃ。

葉っぱ

・・・・待って!

渡り鳥

え?

葉っぱ

私も連れて行って!

渡り鳥

でも・・・・・・・。

葉っぱ

(遮るように)いいの・・・時が来れば私はここから離れて落ちてしまうわ。
でも、それまでずっと物言わぬ仲間の中にはいたくないの!
本当の仲間が多くいる所に連れて行って・・・。

渡り鳥

うん・・・・一緒に行こう。

  
 

パタパタと羽ばたいて、渡り鳥、葉っぱをくわえて茎から離す。

  
葉っぱ

ありがとう。

渡り鳥

じゃあ、これからは一緒だね・・・・君、名前は?

葉っぱ

ないわ・・・ただの葉っぱだもの。

渡り鳥

そうか・・・・じゃあ、僕が君に名前をあげる。

葉っぱ

本当?

渡り鳥

うん・・・・君は本物だから・・・・「ミドリ」だ、どう?

葉っぱ

いい名前!ありがとう・・・・えっと・・・・・。

渡り鳥

僕には名前がないんだ・・・・・僕にも名前をつけてくれないか、ミドリちゃん。

葉っぱ

ええ・・・・勿論よ!ええっとね・・・・・。

  
 

渡り鳥と葉っぱ、楽しそうに空を飛んで行く。
きっと、南のもっと南の緑が生い茂る場所へと旅をするのだろう。

  
  
  
おわり。