951話(2014年6月21日 ON AIR)
「水族館の夜」

作・ナカタアカネ
ゲスト出演・西原希蓉美(満月動物園)

  
 

ざわざわとした賑やかな音が聞こえてくる。

  
店員

いらっしゃいませ・・・お一人ですか?

少女

はい。

店員

お好きな席へどうぞ。

少女

ありがとう、クリームソーダ下さい。

店員

かしこまりました。

  
 

少女、ちょこんと席に座る。
ブクブクボコボコ・・・・席の横に張り巡らされたガラスの向こうで様々な魚が泳いでいる。
ゆっくりとジンベイザメが近づいてくる。

  
甚平

やあ・・・今週も来たね。

少女

えっ・・・・私のことわかるの?

甚平

勿論さ・・・・週に一回は必ずきているから。
そこに座って見る人は、観光客やたまに訪れる人達ばかりだからね。

少女

私・・・最初は正面で、大勢の人達の中であなたを観ていたの。
でも、皆があなたを観たがっているから、一番前で観ていると邪魔でしょう?だから、ここに来たの、気にせずあなたのこと見つめることが出来るから。

甚平

そう・・・・僕も君のことよく見えるから、ちょうどいいね。

  
 

少女と甚平、静かに笑う。

  
店員

お待たせいたしました。

少女

ありがとう。

甚平

いつも、それ頼んでるね・・・・なんていう食べ物・・・・?

少女

クリームソーダよ・・・・・食べ物というより飲み物かしら。
ううん・・・・違うわ、両方ね。

甚平

どれが食べ物だい?

少女

白くて丸っこいのがアイスクリームよ。冷たくて甘いの。

甚平

ふーん、その赤いのは・・・・大きいオキアミかい?

少女

うふふ、違うわ・・・・サクランボよ。
でも、私は苦手なの・・・・赤々しすぎて、ぶよぶよしてるもの。

甚平

そのブクブクしてるのは、飲み物ってやつかい?

少女

ええ・・・・・ストローで飲むと口の中でシュワっと広がるの。

甚平

色が海の色に似ているけど、海水じゃないんだね。

少女

そうね、似てるけど違うわ・・・うふふ。

甚平

ねえ・・・・聞いてもいいかい?

少女

なあに?

甚平

こんなに沢山の魚たちがいるのに、君は僕ばかり観ているの?

少女

そうね・・・・・よく分からないわ。
ただ・・・・あなたを観ていると・・・あの人に似ているなって。

甚平

どんな人なんだい・・・・・随分大きい人なのかい、僕ぐらい?

少女

背は高いけど、そこまでは大きくないわ・・・・・そうね、あなたの模様が似ているわね。

甚平

ん?

少女

ほら、あなたの全体にある模様みたいな服をいつも着ているのよ、その人。

甚平

ああ・・・・・聞いたことがあるぞ・・・・
「ジンベイ」っていう昔からある服と僕の模様が似ているらしいね。

少女

あら、よく知ってるのね。

甚平

僕達の名前は、そこから付けられたんだってね。
この間、沢山の子供達を引き連れてきた先生が、そう説明していたのを聞いたんだ。
でも、ここにはそんな服を着た人は見かけないなあ・・・・・
本当に着ている人っていたんだね。

少女

そうね・・・・・ここに来る人達は、オシャレしてくる人が多いから、いないかな。

甚平

あはは・・・・・心外だなあ、僕の模様はオシャレじゃないみたいじゃないか。

少女

ごめんなさい、そういうことじゃないのよ。

甚平

じゃあ、今度その好きな人を連れてきてよ・・・・「ジンベイ」を着たその人と。

少女

うん・・・。

甚平

あ・・・・・飼育係さんが呼んでいる・・・・みんな待ってるみたいだから、行ってくるよ・・・・またね。

少女

またね・・・・・。

  
 

ボコボコ・・・・・ジンベイザメは泳いでいってしまう。

  
少女

(大きな溜息を付いて)・・・・・・・。

青年

やあ。

少女

あ・・・・・・。

青年

ここにいるって聞いて、探しに来た。

少女

そう・・・・ありがとう。

青年

あの時はごめん・・・あの・・・。

少女

(遮るように)もういいよ・・・・・座って。

青年

うん。

少女

一緒に甚平さんみよう・・・・・きっと彼も、あなたのこと喜ぶわ。

青年

え?

少女

甚平を着たあなたのこと、喜ぶよ。

青年

え、そうなの?

少女

なんでもない・・・・。

  
 

少女、思わず少し笑ってしまう。
つられて青年も笑う。
2人、話しながら水槽を眺める。

  
  
  
終わり