953話(2014年7月5日 ON AIR)
「生ビールはじめました」

作・Sarah

  
 

とある定食屋の開店時間。

  
店長

いらっしゃいませ

店員

いらっしゃいませ

店長

よろこんで

店員

よろこんで

店長

はい、生一丁

店員

はい、な、生一丁

店長

だれだ、今声が裏返った奴は

店員

だれって、この店は店長と私二人しか店員はいません

店長

いいか、挨拶の乱れは心の乱れだ

店員

生一丁コールは挨拶ですか

店長

『とりあえず生で』『はい、生一丁』ほら、挨拶みたいもんだ

店員

ほら、ってうちの定食屋でお酒置き出したの今週からだし

店長

はい、生一丁

店員

はい、生一丁。って言いたいだけじゃないですか

店長

うるさい。はい、生一丁

店員

はい、生一丁

アライグマ

キキ、キキキッキー

店長

だれだ、今変な声出した奴は

店員

だれってこの店は店長と私二人しか

アライグマ

キキッ

店長&店員

キキッ・・ってアライグマ?!

店長

おい!なんでうちの店にアライグマが?!

店員

知りませんよ!店長のペットじゃないんですか?!

店長

俺はペットは飼わない主義だ!死んだとき悲しいだろうが!

店員

そんなセンチメンタリズム、今いらないですよ!

  
 

ガラッと扉の開く音がして、客が入って来る。

  
店長

あ、いらっしゃいませ!

  
店員

い、いらっしゃいませ。はい、お一人様ですね。こちらのお席どうぞ。
あ、よろこんで。店長、はい、生一丁

店長

な、な生一丁

店員

声、裏返ってます

店長

だってうちの店に念願のビールサーバーが置けて、初めての週末だぞ。
これで今年の夏の売上は一気にアップだ、アップ。この感動が分かるか?

アライグマ

キキーッ

店長

そうか分かってくれるか

店員

店長、アライグマとナチュラルに会話しないでください

店長

だってよくみりゃ人懐っこい顔してるじゃないか。どっから紛れ込んだんだお前

店員

いいから店長、生一丁!

店長

全く店長使いの荒い奴だなぁ

アライグマ

キキキッ

店員

て、て、店長!

店長

なんだ、まるでアライグマがサーバーを使いこなしビールを完璧に注いだのを見たような顔をして

店員

まさにその通りです、店長!

店長

本当だ!おおっ!ビールと泡の黄金比率!
しかもビール通を唸らせるこのクリーミーな泡!これぞ生ビールのお手本!

店員

思いついたままなんでも口にしないで下さい、店長

店長

手厳しいな

  
 

客がどんどん入ってくる。

  
店員

あ、いらっしゃいませ。はい、団体様ですね。奥のお席どうぞ。あ、はい、生を 12丁

店長

お、波が来た来た。やっぱり夏はビールだな

店員

いらっしゃいませ。あ、はい。生、3丁。はい、こっちは 4丁で

店長

お、おいちょっと待て、追いつかん

店員

店長よりアライグマの方が役に立ってるじゃないですか

アライグマ

キキッ

店員

はーい!店長。生おかわり入りまーす!

店長

グラス、グラスどこだ

店員

今アライグマが洗ってくれてます

店長

さすがアライグマ、洗うのがうまいなぁ.

アライグマ

キッキッ

店員

店長もちょっとは見習って下さいよ

店長

俺はアライグマ以下か

店員

顔はクマみたいですけど

店長

いいじゃないか、クマ。可愛いじゃないか、クマ

店員

はい、生一丁!

店長

はい、生一丁!

アライグマ

キキ、キキキッキー!

店員

はい、生一丁!

店長

はい、生一丁!

アライグマ

キキ、キキキッキー!

  
 

延々と生ビールを注文するコールが繰り返され、ようやく店は閉店時間を迎える

  
店長

ありがとうございましたー

店員

ありがとうございましたー。あー、やっと終わりましたねー

店長

お、おい。あいつどこいった

店員

あいつ?

店長

アライグマだよ、アライグマ

店員

あれ?いない・・

店長

なんだったんだ一体

店員

暑さで幻覚でも見たんですかね・・

店長

・・とりあえず、今日は店じまいだ。一杯飲むか

店員

あ、いいんですか。ラッキー。じゃあとりあえず生で

店長

はい、生一丁

店員

店長

店長

なんだ?

店員

入れ方、下手

店長

うるさい

  
 

どこかでアライグマが笑ったようなキキキキッという声が聞こえた気がする。

  
  
  
END