男 | 好きな人がいて、その人のことがずっと好きで、 でも好きなだけじゃやっぱり続かなくて、 でも離れてみたらやっぱり好きで、その人のことがずっと好きで、やり直したくて、 でもまた会いに行くタイミングとかその日の気分とか何かを決めることの怖さとか、 何かを先延ばしにする気持ちよさだとか、 なんだかそういった自己完結を 一人で延々していたら、 いつの間にか3年経ってて、早ぇな、時間。 まぁこのままでも別にいいって気持ちと時折部屋のカーテンの隙間からやってくる 切なさが俺の頭の中で半々という感じまた一年。 |
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| さわさわと風の音。 |
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男 | そんな中、最近身体の調子が変で風邪だと思って病院へ行ったら、 よくわからないことを医者に言われてはぁ?って感じ。 しばらくしてから、そっかと思って、まだ元気なうちにあの人に会いにいこうと思った。 |
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女 | いらっしゃいませー。 |
男 | ・・・おいっす。 |
女 | ・・・どうしたの? |
男 | いや、なんか、うん。 |
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女 | ・・・ご注文は? |
男 | コーヒーください。 |
女 | 以上でよろしかったですか? |
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男 | はい。 |
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| 間 |
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女 | ・・・久しぶり。 |
男 | うん。 |
女 | やっぱりわかんない。あんたのこと。急に消えたと思ったら急に現れて。 |
男 | ごめん。電話しようと思ったんだけど、電話番号消しちゃって、 まだここで働いてるかと思って。 |
女 | ・・・で、何の用? |
男 | うん・・・えっと、好きだ。 |
女 | ・・・はぁ? |
男 | 明日、デートしよう。 |
女 | ・・・あのさ。 |
男 | (遮って)わかってる無茶苦茶なのは。わかってる、完全に自己満足なことも。 でも、やっぱり俺・・・好きだわ。 |
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男 | その晩、俺はベッドの上で死んだらどうなるのだろうと考えていた。 すると死神がやってきて、教えてあげないと言った。俺はベッドの上で声を上げて泣いた。 |
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| 朝がやってくる。 |
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男 | 次の日の朝、電話がなった。自称劇作家という男からの電話だった。 |
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作家 | ごめん。病院でのあれ、嘘なんだ。 |
男 | ・・・嘘。 |
作家 | あれは君の見た夢です。それから彼女とのシーンも夢ね。 まだ実際は彼女に会いに行ってないよ。 |
男 | ・・・なんでそんな嘘を? |
作家 | だってドラマだから。 フィクションの中で人の生死を食いものにするのが俺の仕事なんだよ。 |
男 | ・・・俺、まだ夢、見てんのかな。 |
作家 | もちろん。だって人生は夢だもの。その夢の中で確かなものは? |
男 | 教えてください。 |
作家 | 教えてあげない。 |
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男 | 電話が切れると沈黙が残った。カーテンの隙間から柔らかな夏の風が吹いてくる。 あの人に会いにいこうと思う。 |
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終わり |