963話(2014年9月13日 ON AIR)
「俺は皮肉屋」

作・益山貴司
ゲスト・大熊隆太郎(劇団 壱劇屋)

俺は皮肉屋だ。毎日誰かの悪口や陰口を叩いている。我慢しようと思っても、
あとからあとから皮肉が口をこじ開け、飛び出して来る。

でよお、そいつの格好ったら、
まるでイカれたイタリア人のババアみたいなのな

文太君、その例え、なんか分かんない

突然変異の錦鯉って感じ

あー、ちょっとだけ分かった

とにかく、ど派手でえげつないファッションセンスなんだわ

ねえ、ビール、おかわりする?

当たり前だろがよ、何年俺の彼女やってんの?

ごめんごめん。すいませーん、生くださーい

こうやって言いたい放題できるのも、俺の皮肉を聞いてくれる
のの子がいるからだ。ちょっとおっとりしていて世間知らず。
俺がいうのもなんだけど、馬が合うってこういうことなんだろうな

なんの話だっけ

もういいよ。それより、さっきの店員みたかよ

見たよ

なんにも感じなかった?

別に・・・

歯並びが出来の悪いトウモロコシみたいだったじゃねーか

そうだっけ?

ほんと、観察眼がねえなあ、お前

ある方だと思うけどなあ・・・

ところでよ、今度の日曜、あいてるか?

来週、俺はのの子にプロポーズする。出会って何年もたたないけれど、
きっと彼女は受け入れてくれるはずだ。ってゆうか、ぐずでノロマなのの子を
嫁にもらってやるのは俺くらいしかいない。きっと彼女は、泣いて喜ぶだろう。

  
 

  

いちいちデザインに文句をつけながら、俺はようやく結婚指輪を購入し、
レストランを予約。そして、プロポーズ会場となるオシャレなバーで一人、
予行演習を行った

のの子、嫁にもらってやるからありがたく思え・・・だめだな・・・
この指輪、ちょっとダサイけど、お前もちょいダサだし
お似合いだと思うんだ・・・あー、ダメダメ!

カウンターの暗がりで一人芝居をしている俺の後ろのボックス席から
チャラチャラした女の声が聞こえた

でさあ、彼氏が超ダサイの

のの子だった

言ってることもどんだけ俺様なんだよって感じ。
アタシがバカなふりしてるのにも気付かないでペラペラ人の悪口ばっかり
言って、ちっちぇえんだよ、人間が

間違いなく、のの子の声だ。そっと振り返ると、厚化粧ごしに、
のの子の面影が垣間見えた

マジで惚れてるからね、アタシに。気取っててもバレバレだっつーの。
まあ、あいつ、けっこう貯め込んでるから、いいけど別に

その後、ウオッカをストレートで6杯のんで店を後にした。
ふらつく背中にのの子の声が追いかけて来る。

ずるずるな関係続けてるのも金づるって訳。うまくない?このフレーズ!

  
 

  

俺は皮肉屋だ。毎日誰かの悪口や陰口を叩いている。我慢しようと思っても、
あとからあとから皮肉が口をこじ開け、飛び出して来る。
けれど、今夜ののの子にはかなわない。
一括現金払いで買った結婚指輪をゴミ箱に投げ捨て、
あわれな自分に皮肉を飛ばそうと試みる。何も口から出てこない。
相手がいないと、俺はただのだんまり屋だったようだ

  
  
(了)