964話(2014年9月20日 ON AIR)
「愛する君に捧ぐミステリー」

作・Sarah

  
 

男がゴミ袋を片手に、◯◯◯と向き合っている。

  

すまない。本当にすまない

◯◯◯

いいのよ。はじめから分かってたことだから

君は何も悪くない・・その、感謝してるよ

◯◯◯

ええ。楽しかったわ

この夏の君との想い出は決して忘れないよ。
いつだって君は家で文句も言わずに僕を待っていてくれたね

◯◯◯

帰ったらあなたは一番に私のところにとんで来てくれた。嬉しかったわ

だって君が毎日優しく出迎えてくれるから

◯◯◯

それはあなたが私を必要としているのが分かったから

でも、もうそれも・・

◯◯◯

いいの。分かってるわ

すまない

◯◯◯

・・そのゴミ袋に私を詰め込むのね。そうでしょ?

ああ。そのために今から君をバラバラにしなくちゃいけない

◯◯◯

まるであなたの書くミステリー小説のようにね

よく知ってるね。僕の書いてる小説の内容なんて

◯◯◯

だってあなた、お仕事をするときはいつも私の傍にいたもの

そうだった

◯◯◯

あなた、髪に葉っぱが

え?ああ、ゴミ袋を買いに行くのに銀杏並木を通ったんだ。ほら、そこの窓から見えるだろ

◯◯◯

すっかり銀杏の葉も黄色くなってしまったわね

つい最近まで蝉が鳴いてた気がするのにな

◯◯◯

よく、夕暮れの蝉の鳴き声を BGMに、あなたの洗い立ての髪を乾かしてあげたわね

これからは自分で乾かさなきゃいけないな

◯◯◯

出来るの?私がいないといつもほったらかしじゃない

出来る気はあんまりしないけど

◯◯◯

風邪引かないでね

君ってひとは・・最後まで優しいんだな

◯◯◯

わざとよ。別れが辛くなるように

君には叶わないな。こんな時に、さらっと涼しくそんなことを言えるなんて

◯◯◯

そういう性分なの

辛いよ。本当に

◯◯◯

最後にその言葉が聞けただけで充分よ

じゃあ・・いいかい?

◯◯◯

待って

なに?

◯◯◯

また、逢えるかしら

ああ、またきっと・・来年の夏に

  
 

掃除機をかける音がする。

  

ちょっとあなた。早くそれ、片付けちゃってよ

え?

だから、扇風機!たたんで埃被らないようにゴミ袋に入れて、
納戸に持っていってって言ったでしょ

はいはいっと

はい、は一回でいいの

優しくないなぁ

なんか言った?

いいや

ねぇ。新作、書けたの?

いや、でも構想は出来てるよ。バラバラ殺人事件。夏の終わりに愛するひとを殺してしまうんだ

ふーん。夏の終わりってもう秋じゃない

まぁそうなんだけどさ

また一番に読ませてね

はいは・・へっくしょい

あ!ちょっと風邪?やだもう、うつさないでよ

風邪じゃないよ。季節の変わり目だから・・って聞いてないし

  
 

女は既に掃除機がけに戻っている。

  

・・さてと、愛するひとのために扇風機を片付けるとしますかね」

  
  
END