977話(2014年12月20日 ON AIR)
「銀河の果てでも、君となら」

作・大原 渉平(劇団しようよ)

  
 

物語の舞台は、宇宙空間である。宇宙には空気も酸素もないので、声は聞こえない。
けれどこの物語の登場人物たちは、どうしてなのか会話をしている。
宇宙には空気も酸素もないので、音は聞こえない。けれど、宇宙の音がしている。
それは人間が聞いたことのないような奇妙な音だろう。なにかが軋んでいるのか、伸びているのか、溶けているのか、固まっているのかわからないけれど、それが宇宙の空間の音なのだろう。
加えて、とても寂しそうな音であるようにも思う。そんな空間での物語。
ナレーションは、流れ星が語っているのかもしれないし、そうではないかもしれない。


  
ナレーション

例えば。君がいなかったとしたら、まるで、違う星にいるみたいに、
息苦しいのだろう。君がいるから、きっと、ここには酸素があるんだ。

  
おばあちゃん

あの、すみません。

  
 

どこからか、老婆の声がする。

  
ナレーション

そこは宇宙。老婆がいた。僕は驚いた。この無重力空間に、彼女はいた。

  
おばあちゃん

誰かいませんか?

流れ星

おばあちゃん?

  
 

老婆は、一人、誰かを探しているようだ。

  
おばあちゃん

あら、こんにちは。

流れ星

僕は、流れ星。太陽の周りをぐるぐるしてる。

おばあちゃん

そうですか。

流れ星

おばあちゃん、ここ、危ないよ。小惑星がごろごろしている。
どうやってここまで来たの?おばあちゃん、地球の人でしょ?

おばあちゃん

わたしはねえ、歩いてここまできたんですよ。

流れ星

え?歩いて?驚いたなあ。

おばあちゃん

あの、おじいさんを知りませんか?

流れ星

え?

おばあちゃん

わたしね、おじいさんを探してるんですよ。

流れ星

うーん・・・、見たことないなあ。

おばあちゃん

あの人ねえ、お散歩大好きだったから。
いっつも知らないあいだに、どこかに行っちゃって。

流れ星

・・・・

おばあちゃん

喧嘩しちゃったんですよ。晩ご飯の献立てで。お鍋を食べていたんですけど、
おじいさん、魚が嫌いだったの。
でも、好き嫌いしちゃだめって、わたし叱っちゃって。」

流れ星

そうなんだ・・・。でも、こんなとこにいないと思うよ?地球じゃないかなぁ。

おばあちゃん

地球にはいませんよ。だって、おじいさん、先月亡くなっちゃたんですもの。

流れ星

え?・・・・おじいさん、亡くなっちゃったんですか・・・?

おばあちゃん

ええ。

流れ星

・・・

おばあちゃん

でもねえ、わたし、見たんですよ。今朝、おじいさんが玄関を出ていくのを。
わたし、うれしくってねえ。それを追いかけて。

流れ星

そうなんですか。

おばあちゃん

おじいさん、ほんとはすごく優しいんですよ。あの人と一緒なら、
どこにでもいけるって思ったわ。だからね、できることなら仲直りしたいんですよ。

流れ星

仲直り・・・。

  
ナレーション

そう話す、老婆の顔は、優しさにあふれていた。

  
 

ふと、老婆が遠くを指差す。

  
おばあちゃん

あら。ねえ、流れ星さん。あの眩しいのはなに?

流れ星

あれはベテルギウスっていう星だよ。
でも、あの星はもう寿命で、爆発しそうなんだ。

おばあちゃん

そうですか。

流れ星

・・・おばあちゃん?

おばあちゃん

あっちに。あの人が、いる気がするわ。

  
ナレーション

そう言い残すと、老婆は歩いて行った。柔らかく光る、星に向かって。

  
 

老婆の後ろ姿を見送る、流れ星。

  
ナレーション

そこには酸素がなかった。でも、二人だった。
二人でこの街に、この家に住もうって決めた。表札をかかげた。
そしたらそこに、酸素は沸き起こったのかもしれない。

流れ星

僕は姿が見えなくなるまで彼女を見送った。
そして、また、太陽の方へと泳いでいった。

  
  
おわり