988話(2015年3月7日 ON AIR)
「イッツ ア スモール ワールド」

作・益山貴司
ゲスト出演・藤原理恵子(IQ2500)

「あんたなんてもう飽き飽きよ!」と、夫に怒鳴り散らしてしまいたかった。
新婚の頃の甘い時間はとっくの昔に苦くて、辛い時間に変わってしまっていた。
無口で無関心な夫との二人だけのスモール・ワールドに、私は耐えられないでいる

  
 

  
店員

いらっしゃいませ

今日はどんなのが入ってる?

店員

えーっとですね、これなんかどうです?

うわあ、素敵

店員

素朴な作りですけど、よくお似合いですよ

一目惚れだわ。このイヤリング、ちょうだい

店員

ありがとうございます。ほんとに、すごく似合ってますよ

私の好みの色だわ

店員

耳たぶの大きさとぴったりです

  
 

  

たまった鬱憤は買い物で晴らす。
たいして稼ぎのない夫には悪いけど、こうでもしないと夫婦仲は崩壊だ。
特に大好きなイヤリングは、町で見つけた小さな雑貨屋で毎週のように買っている。とっても可愛い耳だねって夫から言われたのは、もう、随分昔のような気がする

  
 



扉が開く音。

  

どこいくの?

でかけてくる

たまの休みくらい、どっかにつれてってよ

まあ、そのうち

そのうちっていつ?この所、しょっちゅう出かけてるじゃない

まあ、いろいろ用事があって

用事ってなんの?

まあ、ね

ちょっと・・・・

  
 

扉がしまる音。

  

来週、思い切って探偵に夫の後をつけてもらおうと思っている。
女遊びでもしているような気配だ。もっともっとイヤリングが欲しくなる。

  
 

  

これとこれ、両方ちょうだい!

店員

はいはい、ありがとうございます

ここにくれば、必ず私の好きなのが見つかるのよね

店員

実はですね、奥様がお選びになっているのは、
いつも同じ作家の一点ものなんですよ

あら、そうなの

店員

ええ

きっと素敵な方なんでしょうね

  
 

店の扉が開く音。

  
店員

いらっしゃいませ

あなた・・・

お前

こんな所でなにしてるの?

店員

この方です

え?

店員

イヤリング作家は

あなたが?

ああ、まあ、来月の結婚記念日になにかしたくてな

  
 

  

意見をききに雑貨屋へ持ち込んだイヤリングを、店主が気に入ったのだという。
それ以来、夫は試作品を作っては雑貨屋の店頭に並べたのだ。
結婚記念日当日、今まで隠しておいたイヤリングたちを見せると、夫は驚いた。
「世界ってとっても小さいんだな」とつぶやいた彼は、
新しいイヤリングを私にくれた。それはとてもとても小さくて、
でも、まるで世界そのもののように大きかった

  
  
(了)