989話(2015年3月14日 ON AIR)
「体調」

作・合田団地(努力クラブ)

  
 

――男女。二人が同棲している部屋。

  

僕は空を飛べる

本当に飛べるの?

ああ。自在さ

そんなに言うのなら、一度でいいから空を飛んでいる姿を見せてよ

今日は体調が良くないから無理だよ

いつもじゃん

何が?

いつ頼んでも体調が悪いじゃん。体調が良いときなんてあるの?
いつだったら体調が良いの?

君が僕に空を飛ぶことを頼んで来たときは、例外なく体調が良くない。
不思議と君は僕の体調が良いときに限って、空を飛ぶことを頼んで来ない

体調が良いときなんてあるんだね

体調なんて良いときばかりさ

でも、頼むときは、良くないときばかり。
一度でいいから空を飛んでいる姿を見てみたいものだわ

いつか見られるさ

そうだといいんだけど

そんなことより、空を飛ぶように、いや、飛ぶ以上に気持ちの良いことをしようじゃないか

ちょっとやめてよ。くすぐったい

そんなに嫌がらなくたっていいだろう。夢見心地になれるんだぞ

そういう気分じゃないの

興が覚めるなあ

あなた、体調が良くなったんじゃない?
こんなことをしてくるくらいだもの。きっと体調が良くなったんだわ

よくわかったね。見てごらん、僕はこんなにも体調が良い

体調が良いのなら、空を飛んでみせてよ

それは、駄目だよ

どうして?

体調が悪いからだよ。見てごらん、僕の体調はこんなにも悪くなってしまっている

駄目よ。さっきまで、あんなギンギンに体調が良かったんだもの。空を飛んでもらうわ

わかったよ。飛ぶさ。飛んでやるさ

  
 

――マンションの屋上。強い風。

  

というわけで、私達は高いところに来ました

おい、君。高いじゃないか

そうよ、ここは高いわ

君はここから飛べと言うんだな

ええ

でも、体調が悪いのは本当なんだ。それでも見たいのか

見てみたいわ

そうか。なら飛ぼう

  
 

――足を踏み出す音。

  

え。本当に飛ぶ気なの?

僕はこの大空を自在に飛びまわることができる

あなた、今まで一度でも空を飛んだことはあるの?

一度もないよ

え、一度もないの? 一度もないのに、空を飛べるなんて言っていたの?

一度も空を飛んだことがないのは体調が悪かったからだよ

体調の問題じゃないでしょ

いや、体調の問題だよ。
もし、体験したことがないくらい僕の体調が良ければ、空を飛べると思うんだ

そうかな。そうかもしれないわね

でも、今はやっぱり無理だ。
体調が悪いわけじゃないけど、特別良いわけじゃない。いいかな

わかった。許してあげる

ありがとう。部屋に戻ろう。寒くなってきた

ちょっと待って、あなた

なんだよ、君。……おお。凄いな

夜が明けるわ。新しい一日が私達を祝福してくれてる

  
  
――終わり。