ラヴィーナ&メゾン STORY FOR TWO クリスマススペシャル2016
“物語のはじまりは…”
第4話(2016年12月23日 ON AIR)
「ハンド」

作・たみお(ユリイカ百貨店)

キャスト 大木湖南
  佐々木ヤス子
  ママ・おばあさん 平野 舞(維新派)
  女の子・女学生 稲垣綾菜(同志社小劇場)
  
 

冬の街角、男がたっている。
音楽
男の声はハツラツとしている。
くらさがない。

  

どなたか、僕の手を握っていただけませんでしょうか。

冬の街角で、その男は、道行くすべての人に手を差し出していた。

僕の手を握っていただけませんか。

大通りの交差点にあるファーストフードの前に男はたっている。
私は店のなかから、その男の様子を見ている。、かれこれ一時間たつ。誰も男に近づかない。

僕と、あ、あ、(派手なくしゃみ)

ふーーー

  
 

男少し肩を落として落ち込み、

  

よし。・・・よし。

  
 

男、気合を入れ直している。自分に語りかけている。

  

どなたか、僕と握手をしてくれませんか!!

  
 

大きな声だった!
女動揺してコーヒーなどをこぼしている。

  

び、びっくりした。。。!

おーーーーーーーい。

  
 

道行く人は誰も振り返らない。まるで何事もなかったかのように、店内の会話も途切れない。

  

こんなに大きな声なのに、、、みんな、スルーがとても上手。
・・・それとも、もしかして、私にしか、見えないとか?いやいやそんなはずはない。
グレイとホワイトの冬の街を背景に、紺色の大きなコートと、黒いマフラーをした男の背中。
たちのぼる白い息もしっかりと見える。

僕の手を取ってくれませんか。

あ、ひとりの子供が立ち止まった。黄色いコートを着た女の子だ。男をじっと見上げてる。

・・・やあ。

ママ

なにしてるの、いくわよ。

女の子

ママ。

ママ

さあ、遅れるわ。

女の子

あのね。

ママ

はやくなさい!

ああ、連れて行かれた。女の子は何度も何度も男を振り返ってる。

さようなら!気をつけて、道が凍ってるから。

女の子を見送る男の横顔。重ためのまぶたと大きな鼻。薄い唇。

さようなら。

私、この人を知ってるわ。
お父さんだ。

おーーーーーーい。

しかも、若い頃の、若い頃のお父さんだ!

おーーーーーい。

  
 

喧騒とポップな音楽が急になり始める。
さっきまでは暗かった。

  

私の頭のなかで、音楽がなり始める。
なんなの。どうして。
そこからは全てがスローモーション。手にもったコーヒーを思わず落として、
黒いミルククラウンが床にできる。スローモーション。
同時に食べかけたポテトフライが空を舞い、ハンバーガーのパンと肉と野菜が空中でぱかっと分解。
それもスローモーション。

  

おーーーーい

立ち上がる私。まだ空間に舞ってるポテトフライ。パンと肉の距離がゆっくりと開いていく。
レタスが天使の羽みたいに空中で舞っている。
かたわらの、椅子に置いてた白いマフラーを首にひっかける。
わたし RPGの勇者みたい。
白いマフラーを後ろに長くはためかせたまま、自動ドアに向かってる。

僕の手を

父は、去年死んだ。

とってくれませんか。

事故だった。
そのまま誰にも気づいてもらえず、明け方、道路の真ん中で、冷たくなって見つかった。

  

私は店を出て、父の前にたった。

  

・・・やあ。

(ささやく心の声)やっぱりお父さんだ。

こんにちは。

(心の声)なんてキュートに笑うの!でも、この人、私のこと、わかるかしら。

おじょうさん。

(心の声)やっぱり、わからない?

あのう

(心の声)私のこと、わからない?

困りました。そう黙ってられると。

(心の声)しまった!
(声に出した)こんにちは!

笑。やあ、こんにちは。

私のこと、わかりますか。

あなたのこと。ええと、ごめんなさい。

(心の声)わからないんだ。ちょっとまってなにこの状況。タイムスリップ?それとも幻想?

僕にわかるのは、-僕の目の前に、あなたがいるということだけ。それだけですが。

また笑った!なんてキュート。父の笑顔そのままだわ。

いま、僕は実験をしてるんです。

えっ

実験をしてるんです。
こうして街頭にたって、見ず知らずの誰かが、僕の手を取ってくれたなら、僕のために、
手袋もとって、僕と握手してくれたなら、僕の人生は、この先まったくもって大丈夫になる。

なにそれ!

わははは!ですよね。

ご、ごめんなさい。

いや、いいんです。しごくまともな反応です。我ながらおかしなことをしてると思ってます。

私は思いっきり首を降った。だってそれはとても父らしかったから。

  
 

音楽、ピアノ系、過去へ帰っていく。

  

父は少し変わっていた。人の善良さをどこまでも信じてた。口癖は、いつもこう。

(ささやく)とうこちゃん。

わたしのなまえ。

(ささやく)とうこちゃん。お父さんはね、信じているんだよ。
わるい心やいじわるな心は、宇宙の霧のもので、どこにでも漂っているけれど、
人の心の中からはやってこないんだ。

じゃあどうして悲しい事件は起こるの。

とうこちゃん。誰がなんと言ったって、君は信じちゃいけないよ。
その人のいじわるを。その人の、悲しい言葉を。
いまに、宇宙の霧がどこかへと飛んでゆくまで、君だけは、待っててあげるんだ。

へんなお父さん。へんな、へんな、お父さん。あの日、誰も、助けてくれなかったじゃない。

  
 

雑踏が少しずつ戻ってくる。

  

おじょうさん。おじょうさん。やれやれ、やっぱり、この実験は失敗でしょうかね。

目をあげれば、私と同い年くらいの、父が笑ってる。
・・・はい!

ん?

握手!

あ。

握手しましょ。実験してるんでしょ。

それは、それはどうもありがとう。いいのかな。

いい!

そ、それじゃあ。

  
 

間。

  

私たちは手をつないだ。大きな手。かさかさとして、触れ合うとピリピリと皮膚に電気が通る。
この感じ。間違いない。これは父の手。ぎゅっと握り直す。こみあげてきて鼻が赤くなる。

  

・・・どうしよう。

え?

握手してくれたの、あなたが初めてなもので、この後どうしたらいいかわかりません。

この後?

いやあ、そのう、このつないだ手を。

・・・

いったい、いつまで・・・?

離し難いわ。

え?

なんでもない。でも離し難い。

そうですか。いや、確かに僕も同じ気持ちです。あなたさえ嫌じゃなければ、僕は、ええ、喜んで。

はい!
私と、若かりし父は、直立不動で手をつなぎあった。
ちょうど、「M」と同じシルエットで道を塞いでる。暖かな、父の手。

  
 

信号が変わる音。

  

信号がかわって、道の向こうのほうから人が渡ってくる。

これはいけません。今に、みんながここにきます。

おばあさん

ちょっと邪魔だよ。

すみません!

いや!父とつないだ手を離したくなくて、そのまま腕を空へふりあげる。
どうぞ!おばあさん、ここ通って!

おばあさん

え?ここを?

そう!

おばあさん

ええ?

つないだ父と私の腕が、アーチになってる。
おばあさん、私たち、実験してるの。

おばあさん

え?

見ず知らずの私たちの間を、何人くぐってくれるのか

おばあさん

くぐったらどうなるんだい。

どうなるか?そ、それは、、う、嬉しい!

おばあさん

嬉しい?

私が、嬉しくなる!ただそれだけ!

おばあさん

笑。じゃあ、くぐらせてもらおうかしら。

もちろん!背の低いおばあさんが、そっと私と父のアーチをくぐった。

おばあさん

あら。

えっ

おばあさん

私もちょっと嬉しいわ。

ど、どういたしまして!
頬にえくぼをのぞかせて、手をひらひらとふりながら、おばあさんは先をゆく。

君ね。

今度はマッチ棒みたいな細くて背の高い学生。
さ、あなたもくぐって。

学生

えっ。は、はい。

体をまげてくぐってく。その次は、ちょっとかわいいショートカットの女子。

女学生

失礼しまーす。

その次はサラリーマン。

サラリー

舌打ち。

舌打ちされた。でも気にしない。ベビーカーを押した女の人が驚きながら潜っていく。

おじょうさん。

もう少しだけ!おねがい。

でも、いくらなんでも、通行の邪魔でしょう。

あなただって、大きな声だったくせに。

確かにそうだけど、でも僕は通行人の邪魔はしていません。壁に体をくっつけてたし、

でも

女の子

おかーさん、ここ潜ってもいい。

あ、黄色いコートの子!

ママ

ええ??

やあ!、さっきのおじょうちゃんじゃないですか。どうぞ潜って!トンネルだよ。

女の子

わーい。

ママ

この子ったら。どうも、すみません。

いえいえ!とっても嬉しそうだ。

女学生

あのう。

さっきのショートカットの女子が戻ってきた。

女学生

写真とってもいいですか。

写真?

女学生

なんだか、素敵で。

とって!

えっ

バシバシとってください。それで、私のアドレス、あとで教えるからそれに送ってください。

ちょ、ちょ

おねがい。私の人生がこの先まったくもって大丈夫になるように。

え?

あした、結婚式なの。

えっ

あした、私の結婚式なの。結婚するの。相手は、お父さんの知らない人。全然知らない人。
でもとっても優しい人。私より、五つも年下だけど、でもすごくしっかりしてるの。
きっとお父さんも気にいるわ。

それは、、、おめでとう。

ありがとう。写真、写真見る?

いいえ。きっとあなたが選んだ人だから、素晴らしい男性なんでしょう。

そう、そうなの。

笑。

なあに。

僕、てっきり、恋が始まるかと思ってました。

え?

君と恋が始まるかと思ってました。

私と。

おかしいですよね。

  
 

愛しそうに笑っている。

  

だめよ!

そりゃそうです、君はあした結婚するんだもの。

違う!まだ出会ってないだけ。
今にもんのすごく優しくて、あなたのことを大好きな、そりゃもう大好きな人と、出会うから!

そうですか!

そうなの!

じゃあ僕の人生、この先まったくもって大丈夫なんだ。

そうよ。

実験は成功だ。

そうよ!

おめでとう。結婚おめでとう。

ありがとう。・・・おとうさん。

え?

女学生

こっちむいてー!撮りますよー。

ふたり

はい!

  
 

パシ!

  

つないだ手をそのままに、私たちはしばらく、冬の道を歩いた。
やがて雪が降り出してくる。やわらかに舞い落ちる。それはまるでスローモーション。
暖かな父の手が、私の寒さを、どこまでも、どこまでも、溶かしていく。
どうかしばらくはこのままで。つないだ手を離さないで。

  
  
END