ラヴィーナ&メゾン STORY FOR TWO クリスマススペシャル2018
“言葉のカイロでホッカホカ ”
第3話(2018年12月23日 ON AIR)

「荒野のイメージ」

作・合田団地
キャスト
A 北村守(スクエア)
B 大熊隆太郎(壱劇屋)
1 一瀬尚代(baghdad café)
2 東千紗都(匿名劇壇)
――男二人(A、B)。寒空の下。
しかし、寒いね
寒いね
こんなに寒いと嫌だね
嫌になるほど寒いね
どうにかならんものかなあ
寒さはどうにもならんな
そうか。どうにもならんか
せめて日光さえあればなあ。暖かいのになあ
いや、ちょっと待ってくれ
なんだよ
寒い寒いと思っているけれど、本当に寒いのだろうか
なにを言っているんだ。本当に寒いから、寒い寒いと思うのだろう
いや、本当は寒くないのではないか
どういうことだ
寒い寒いと思っているから寒く感じるけれど、暖かい暖かいと思っていれば暖かく
感じてくるんじゃないか
馬鹿げたことを言う
暖かいものをイメージしてみろ。そうしたら、この寒さも少しは和らぐだろう
嫌だね。馬鹿馬鹿しい
いいじゃないか。時間だったら、いくらでもあるのだから。確かに暖かいものをイメージして
みたところで寒さは和らがないかもしれない。でも、少なくとも頭を使えば気は紛れる。
そうだろう
このままなにもしないで寒さに震えていても仕方がないからな。よし、気を紛らわそう。
どうすればいいか
お互い順番に暖かそうなものを言っていくんだ。ただそれだけで暖かくなるはずだ。いいかい
わかった
じゃあ、俺からだ。湯気の立った風呂
燃え盛る炎
ぐつぐつと煮えたぎる鍋
ギラギラとまぶしい太陽
畳に敷かれた羽毛布団
赤茶けた荒野
それ、暖かいか
暖かいどころか、暑いくらいだよ
そうか?
お前の番だぞ
いや、納得いかないな。赤茶けた荒野なんて、暖かいというより寂しいじゃないか。
見渡す限り荒野しかない。寂しいところだ。暖かいわけがない。寂しいんだから
おい。お前の番だぞ
お前の負けだ
いや、俺は負けてない。お前の番だ。早く暖かそうなものを言え
雪の降る静かな夜
おい
どこまでも続く白銀の世界
おい
凍てつく大地
おい
なんだ
真面目にやれよ
なんだよ
雪の降る夜、どこまでも続く白銀の世界、凍てつく大地。どこに暖かいイメージがある
あるだろ
ない
ないか。ないな。しかし、赤茶けた荒野にもない。暖かそうなものを言えなかったのは
お互い様だ
寒くなってきた。暖かそうなものを言っていたときは暖かったのに。お前のせいだぞ。
お前が寒く冷たそうなものを言うからだ
寒いな
寒いよ。自業自得だよ
寒いな
寒いよ
寂しいな
寂しいのか
ああ、寂しい
寂しさにとりつかれてしまっては厄介だ。どうにかならないか
どうにもならんな
寂しくなるなよ
無理だな
どうすれば寂しくなくなる
どうにもならない
そうか
――女(1)、通りかかる。
なにをしとるの、こんな寒空の下で
こいつが寂しがっているんだよ。なあ
ああ、寂しい
寒いからな
寒いからか
寒いからな。寂しくなるのもむべなるかな
お、俺は今、寂しいんだ。心許ないんだ。助けてくれないか
あはは、私が
ああ
助けてやってくれないか
いいけど、どうすればいいかな。どうすれば寂しくなくなる?
抱きしめてほしい。抱きしめてくれ
おい。それは望みすぎだ
望みすぎかどうかはお前が決めることじゃない。どうかな
いいけど別に
ほらな
それだったら俺だって
なんだ
それだったら、俺だって抱きしめて欲しい
お前は寂しくないだろう
俺は、俺はたった今寂しくなった。いいかな、俺も抱きしめてもらっても
いいけど、別に。でも、二人とも抱きしめるっていうのは嫌だな
どっちかだけか
じゃあ、一人は抱きしめてもらえて、一人は抱きしめてもらえないのか
うん。私にもプライドがあるからね。じゃあ、私が今からクイズを出すから、
先に答えてくれた方を抱きしめてあげる
わかった
わかった
じゃあ、クイズです。これはなんでしょう。鉄粉、水、木粉、活性炭、バーミュライト、食塩
なんだろう
わかった。使い捨てカイロだ
正解。よくわかったね
だって、手に持っているものはなんだい
これ? これは使い捨てカイロ
使い捨てカイロの成分表を読んでたから。わかるよ
そっか。じゃあ、正解したから、約束通り抱きしめてあげよう
すまんな、お前
抱きしめてほしかったけど、仕方がない
じゃあ、抱きしめてあげるね。ぎゅー
あれ
どうしたの
抱きしめられている気がしないな
あれ、おかしいな。抱きしめてるのにな。ぎゅー
駄目だよ、言葉だけでぎゅーって言ったって。それでは抱きしめてくれたことにはならないよ
ぎゅー
いやいや、言葉だけじゃ駄目だって。本当に抱きしめて
ほんまには嫌じゃ。へへへ、逃げろー
――1、いなくなる。
行っちゃったね
行っちゃった
寒いね
寒いね
寂しいね
寂しいね
抱きしめてほしかったね
そうか
俺はどうしても抱きしめてほしかった
俺もだ
カイロ、暖かそうだったね
そうだね
カイロをイメージしただけで暖かいや
そうかな
カイロ暖かいな、カイロ暖かいなって思ってたら暖かくなるよ
なるかよ
寒いかい
寒いね
クイズでもして気を紛らわすか
そうしよう。どんなクイズだ
首都当てクイズは
いいね。じゃあ、日本
東京。じゃあ、イギリス
ロンドン。じゃあ、フランス
パリ。じゃあ、アメリカ
ニューヨーク
ブー。正解はワシントンD.C.でした
そうか。よく知ってるな
勉強してるからな
なるほどなあ。えっと、じゃあ、中国
北京
おー、正解
じゃあ、ブラジル
リオデジャネイロ
ブー
え、リオデジャネイロじゃないの
正解はブラジリアでした
へえ、そうなんだ。じゃあ、これは難しいよ。エジプト
カイロ
正解。エジプトの首都はカイロでした
カイロ。使い捨てカイロ。カイロ。ギラギラとまぶしい太陽、赤茶けた大地。
カイロ、エジプトの首都
B『
俺は、エジプトの首都をカイロと答えた。すると、今まで行ったことがない、勉強した本の中で
しか知らないカイロの街の景色のイメージが頭の中に広がった。俺は赤茶けた荒野の中を
立ちすくんでいる。俺はカイロにいた。さっきまで寒くて凍えていたのに、今では灼熱の、
ギラギラとまぶしい太陽にさらされている。熱波が襲う。暑い。肌が焼ける。喉が渇く。
見渡す限りの荒野。俺は寂しくなってしまう。あまりの寂しさに自然と荒野を歩き出す。
オアシスを求めて歩く。
歩き続けているとオアシスを見つけた。オアシスを中心に街が広がる。オアシスタウン。
迷路のような街の中にバザール。バザールは賑やかで、寂しい俺は吸い込まれるように中に入る』
――女(2)がいる。
ようこそバザールへ。あなたのことを待っている人がいます。着いてきてください
『バザールの街角、色鮮やかな果実を売っている店の前にいた女が俺をいざなう。
女は人で込み合うバザールを縫うように歩く。俺は女を見失わないよう必死だ。
やっと女が振り返る』
着いてこられていますか?
ええ。なんとか。でも、もう少しで見失いそうでした
すみません。あなたと引き合わせたくて、気持ちが先走ってしまいました。
あなたに合わせてゆっくり歩くことにします
ところで俺を待っている人というのは一体誰です?
心当たりはありませんか?
ないですね
そうですか。あなたが大好きな人ですよ。楽しみにしておいてください
『女はそう言うとまたバザールの人混みをかきわけていく。女のようにスムーズに歩けない俺は、
また女を見失いそうになるが不思議と見失うことはなかった。俺に合わせてくれていたのかも
しれない。人気がなくなったバザールの奥、見覚えのある小さな小屋の前で女が立ち止まる』
着きました。この中にあなたのことを待っている人がいます。どうぞ、お入りください
『太陽がかげり、また肌寒くなってきた。おかしい。ここは荒野の街じゃないのか。
吹きすさぶ風。冷たい風が肌を刺す。急いで小屋の中に入る。小屋の中には、どうしても
抱きしめてほしいと望んだ女がいた』
わざわざこんなところまで
ここはエジプトのカイロ?
違うよ
そうか。通りで寒いはずだ
寒い? 暑くない?
抱きしめてほしい。寂しいから
暑いのに
でも、本当は寒いから
本当は寒いね
抱きしめて
本当は寂しくないんでしょう
本当に寂しいよ
じゃあ、抱きしめてあげよう。ぎゅー
言葉だけじゃ嫌だ。寒いから。本当に抱きしめて
ぎゅー。どう?
寂しくない
暑くない?
暑くないよ
寒くない?
寒くなくなった
そうか。よかったね
――終わりです。