ラヴィーナ STORY FOR TWO
クリスマススペシャル2005
“恋するクリスマス”
第3話(2005年12月23日 ON AIR)

「 ほんのちょっぴりの勇気 」

作・大正まろん
出演
男 50歳 腹筋善之介
母 50歳 こやまあい(遊劇体)
息子 22歳 森澤匡晴(スクエア)
彼女 22歳 池永佳代(維新派)
娘 20歳 重実百合(クロムモリブデン)

リビングで、パソコンメールをチェックする母がいる。
「ご無沙汰だな。チャコ元気か?日本は寒いだろう。俺は一人でも日常会話くらいは困らず喋れるようになったぜ。最近は海を横目に大工仕事に精をだしてるよ。一刻一刻と変化する海の色、どの瞬間も本当にきれいだ。俺も君に倣(なら)ってパソコンをはじめた。これだけ打つのに一時間もかかったぜ。今度、旦那と二人で遊びに来いよ。
待ってるぜ。」
そのメールを読んだ瞬間、きらめく海と、潮の香りが私を包んだ。
息子は部屋で彼女と電話で話している。
彼女
「えー、今年も、また?」
息子
二年前のクリスマスイブ、二十歳になった僕と、妹の枕元にプレゼントを置き、父は家を去った。今は別の女性と暮らしているらしい。
彼女
「ねー、どうしても会えないの?」
息子
「夜、母さんが眠ってから君の家に行くから。」
彼女
「でも明け方また家に戻るんでしょ。」
息子
「ああ。」
彼女
「なーんかさぁ、愛人みたい。」
息子
「へ?」
彼女
「私。お母さんが本妻。」
息子
「馬鹿な事言うなよ。・・・クリスマスだけは、母さんのそばに居てやりたいんだよ。」
彼女
「馬鹿はそっちよ、クリスマスなのに、一人寂しくあなたを待って過ごすなんて、私、耐えられない。」
息子
「ホント申し訳ないと思ってる。」
彼女
「もういい。」
息子
「埋め合わせは、するからさ。」
彼女
「もうクリスマスは会わない。私だってお誘いの一つや二つあるし。」
息子
「それって、お、男か?」
彼女
「あなただって、“女”と過ごすんじゃない。」
息子
「女って言っても母親だぞ、そこいらの女、」
彼女
(遮って)「もう知らない、バイバイ。」
息子
「ちょっと、ユカリ。」
電話は、「ちょっと、ユカリ。」の“ちょっ”あたりで切れた。
プープーッと鳴る電子音が空しい。
お風呂で、娘がシャワーを浴びている。
クリスマスイブ、一緒にごはんを食べようって誘われた。これって恋人になって欲しいって言われたのと同じ意味だよね。それにしても・・・お兄ちゃんをどう説得するか・・・毎年、クリスマスは三人で過ごそう、なんてマジモードで言ってたしなぁ。・・・父さんは家を出て新しい生活を始めている。残された私達はまだ何も始まってないような気がする。
息子がリビングにやってくる。
母は夕食の後片付けをしている。
息子
「母さん、母さん。」
「ん?」
息子
「手伝うよ。」
「ありがとう。じゃあ、お皿ふいてくれる?」
息子
「あぁ、はいよ。」
食器を洗う母と並んでお皿を拭く息子。
息子
「んー、今度のクリスマスは何がいい?ステーキ焼く、中華もいいしな・・・。」
「そうねぇ・・・。」
風呂から上がった娘がリビングに入ってくる。
「ふぅー、アチアチアチアチ。」
息子
「アミは何がいい?」
「え、何って?」
息子
「イブの日、なに作ろうかって話してたんだ。」
「ああ、ええと・・・それなんだけどさ、私、先約があるんだ。」
息子
「なんだそれ、断れよー。」
「いやよ。」
息子
「クリスマスだぞ。」
「そうよクリスマスだからよ。」
「アミ、彼氏と会うの?」
「まあ・・・そんな雰囲気になりかけてるって感じ。」
息子
「どんな奴だよ。」
「正式に付き合う事になったら、ちゃんと紹介するし。」
息子
「正式って何だよ、じゃあ今は仮契約みたいなもんか。」
「何よそのイヤミったらしい言い方。」
息子
「そんな仮契約野郎と過ごす事ないだろ。」
「お兄ちゃん、」
息子
「なんだよ。」
「私にあれこれ指図するのやめてくれる。」
息子
「あれこれじゃない。クリスマスは特別だろ。家族三人で過ごそうって決めたじゃないか。」
「それは去年の話。・・・もう二年もたったんだよ。」
息子
「たった二年だよ。」
「だからさ、何がしたいのよ。仲良くしてたらこっちに父さんが帰ってくるとでも思ってるわけ?」
息子
「あんな奴に戻って欲しいわけないだろ。」
「ほうら二人とも、ケンカしないで・・・アミ、別に変な人じゃないんでしょ。」
「何、変な人って。」
「ん・・・奥さんが居るとか。」
「まさか、普通の人だよ。ただ、付き合うとか、そんな話はまだしてないの、デートを二、三回して、クリスマスも会おうって事になって・・・。」
「好きなの?」
「好きに決まってるじゃない。」
「じゃあ、行ってきなさいよ。」
息子
「母さん?」
「ツカサも、いいわよ。」
息子
「へ?」
「無理しなくったって。」
息子
「無理なんかしてないよ。」
「嘘おっしゃい。また、今年も夜中にこっそり家抜け出して彼女に会いに行くんじゃないの?」
「・・・え、お兄ちゃん、そんな事してたの?」
息子
「いいんだよ、彼女だってわかってくれてるし。」
「やっぱり親子って似てるのねぇ・・・」
息子
「母さんと俺?」
「ううん。お父さんとツカサよ。」
息子
「何でだよ、あいつなんかと一緒にしないでくれよ。俺は家族を捨てたりしない。絶対。」
「ツカサ、そんなに強く握ったらグラスが壊れちゃうわ。」
息子
「ああ・・・。」
「お兄ちゃん、あと代わるから。」
「それは後でいいわ、ちょっとお話ししましょ、二人ともソファーに座って。」
「何よ、かしこまって。」
「いいから。」
シンとした室内にひびくスリッパの音。
ソファーに腰掛ける三人。
「もう、話してもいい頃よね。」
息子
「なんだよ。」
「・・・父さんはね、・・・毎年、毎年、イブの夜、こっそりと出かけてたの。」
息子
「え。」
「ツカサが十歳の時から毎年。私は、眠ったフリをしてた。ずっと知らないフリをしていたの。どこに行くのか聞いたら、お終いだってわかってたから・・・。」
「母さん・・・」
息子
「クリスマスの時期にふさぎ込んでたのはそのせいだったの?」
「・・・クリスマスは過ごしたい人と一緒に過ごす、それが一番いいのよ。私ならもう大丈夫だから。」
息子
「だったら尚更だろ、三人でさ、楽しいクリスマスにしようよ。」
「無理やり三人で幸せ家族ごっこしたって、仕方ないって。」
息子
「ごっこじゃない!」
「こっそり彼女に会いに行くなんて、いい子のフリしてるだけじゃない!」
息子
「だから、それは違うってば!」
「どう違うのよ。」
息子
「だから・・・」
「私、旅に出ようと思うの。」
息子・娘
「えっ?」
「今年のクリスマスは、暖かい国で過ごすつもり。」
息子
「どういうこと?」
「その・・・遊びにこないかって誘われてるの。」
「それって、ひょっとして彼氏ぃー?」
「そう、彼氏。・・・ウソよ。大学の同級生だった人。まだ、仮契約にも至ってない。」
「へーえ。」
息子
「母さんまで、何言ってるの。」
息子の携帯に電話がかかってくる。
息子
「あ、あ・・・もしもし。」
彼女
「さっきはごめん・・カッとして言い過ぎた。」
「あ、彼女からぁ?」
息子
「うるさい!」
彼女
「え?」
息子
「いや違う、いや、ちょっと待ってね、部屋行くから・・・・」
息子は、自分の部屋へ向かう。
「母さん、」
「何。」
「父さん、きっとどっちも大事にしたかったんだよね。」
「どうかなぁ。」
「今のお兄ちゃん見てたら、何かそう思っちゃった。」
「そう・・・そうね。」
「さ、仮契約君にメールの返信してこようっと。」
「また、キチンと紹介しなさいね。」
「うん、母さんもね。」

リビングで、母はメールの返信を打とうとしている
旅の話は思い付きだった。・・・いや、そうでもないかもしれない。あの潮風が、私の中を駆け抜けた途端、私は、海の向こうに引き寄せられたのだ。・・・クリスマスにほんのちょっぴりの勇気をもらって、私は、その波に乗ってみようと思う。
「私もあなたの見つめる海が見たくなりました。クリスマス、そちらへ遊びに行ってもいいですか?」
送信。
一つの勇気は、海を越える。
終わってまた始まる